専門家からのアドバイス

2025/07/01

【梅雨×老犬】湿度に潜むシニア犬の健康リスクと対策

梅雨に体調を崩す人は少なくありませんが、犬にも同じような症状が起こり得ます。
特にシニア犬は体調面で心配事を抱えている場合も多く、これからの時期は体調管理がより大切になります。

「シニア犬にとって湿度とは?」
「梅雨に意識すべき健康リスクは?」

獣医師として30年以上のキャリアを持つ平松育子先生に教えてもらいました。

目次



「梅雨」はシニア犬の健康リスクが高まる時期

冷感シートに乗る小型犬

犬は湿度が高くなると体内に溜まった水分が放出されにくくなり、その結果、様々な体調不良が起こりやすくなります。
また、梅雨には気圧の変動が大きくなりますが、この影響で自律神経の働きが乱れてしまい、体内のコントロールが通常通りできなくなることがあります。

皮膚や耳にも注意が必要です。
雨が多く湿度が高くなることから細菌や真菌、ノミやダニなどが繁殖しやすくなります。
抵抗力が弱くなる高齢犬は皮膚のトラブルも起こりやすくなるのです。

梅雨の健康リスク

  • 高い湿度によって体調を崩しやすい
  • 自律神経の働きが乱れやすい
  • 細菌やダニが繁殖し、皮膚トラブルが増えやすい


このように、梅雨は老犬の健康面においては特に注意すべき時期だと言えます。
本記事を参考に上手く乗り切って、元気に夏を迎えましょう。

高い湿度がシニア犬にもたらす健康トラブル5選

特に気をつけたい梅雨の健康トラブルとして、以下の5つについて解説していきます。

  • 熱中症
  • 気圧の変化による関節への影響
  • 皮膚トラブル
  • 呼吸器系疾患の発作誘発
  • 食中毒などの消化器系疾患

「熱中症」の発症リスクが高まる

舌を出す犬

熱中症というと真夏のイメージがありますが、高温多湿になる梅雨から対策することが重要です。
梅雨の時期には湿度が高いため、真夏ほど高くない気温でも熱中症にかかりやすくなります。

これは、暑さに体が慣れていないことや、犬は汗をかいて体温調節することができず体に熱がこもりやすいことなどが原因になります。

熱中症の症状としては、以下のようなものが挙げられます。

初期症状 危険な症状
  • 元気や食欲がない
  • 呼吸が荒い(口を開けてハアハアする)
  • フラフラする
  • よだれを垂らす
  • ぐったりして動かない ,etc…
  • 舌の色が悪く、薄い紫色になる
  • 嘔吐や下痢が起こる
  • 意識がない
  • けいれんが起こる ,etc…

熱中症が進行すると命にかかわる事態になりますので、このような症状が起こった場合は、一刻も早く動物病院に連れていく必要があります。

また、老犬の場合は心疾患や腎臓・肝臓といった内臓系の病気がある犬も多く、持病がなくても体内の様々な機能が低下していることもあります。
そのため症状が急速に重くなる可能性があります。

特に、次のような特徴のある犬は注意が必要です。

熱中症に注意が必要な犬の特徴

  • 太っている
  • 長毛種
  • ダブルコートの犬種 ,etc…

気圧の変化によって関節炎や慢性痛が悪化しやすい

犬のレントゲン写真

梅雨の時期は気圧が低下しやすく、特に低気圧が通過すると気圧が大きく変動することがあります。
この変化は犬の体にも影響を与え、変形性関節症を患っている高齢犬の場合、痛みが強くなる傾向があります。

気圧が下がると体内の圧力も下がり、血管や関節包(関節を包んでいる袋状の膜)が拡張します。
その結果、血液の流れが悪くなったり、関節周囲の神経が圧迫されて痛みが生じます。

高齢になると約4割の犬が関節炎を患っていると言われています。
また、椎間板ヘルニアになっている犬も気圧が下がる時期には症状が悪化する恐れがあります。

関節炎になりやすい犬の特徴 椎間板ヘルニアになりやすい犬種
  • 太っている
  • ジャンプすることが多い
  • 階段やソファを昇り降りする ,etc…
  • ミニチュアダックスフント
  • コーギー
  • ビーグル ,etc…

上記に該当しない犬種でも、関節炎や椎間板ヘルニアになる場合があります。

いつものように動かない、立ったまま座ろうとしない、痛そうに悲鳴を上げるなどの症状がある場合は関節炎などの痛みが生じている可能性があります。

皮膚や耳のトラブル(かゆみやニオイ)が増える

体を掻く犬

梅雨の時期は高温多湿のため、細菌や真菌、ノミ・マダニといった寄生虫が増えやすくなり、皮膚や耳のトラブルが多くなります。
また、ハウスダストに対するアレルギーを持っている犬の場合は、梅雨に症状が悪化しやすくなります。

皮膚や耳のトラブルの原因

  • マラセチア
  • 細菌(特にブドウ球菌)
  • イエダニ
  • カビ ,etc…

マラセチアやブドウ球菌は皮膚に常在している菌ですが、抵抗力が落ちたり体調不良が起こると一気に増え、皮膚トラブルの原因になることがあります。
このような菌が原因となり、皮膚が赤くなったり痒みやニオイの原因になります。

マラセチアはピーナツのような形をしたカビの仲間ですが、痒みの他にもフケや黄色いワックス状のベタベタが皮膚に出やすく、皮膚上で繁殖すると発酵臭の原因になります。

イエダニやカビは特に梅雨の高温多湿の時期に増えやすく、アレルギーの原因になることがあります。
家の湿気対策などを十分に行いイエダニやカビが繁殖しにくい環境作りを行っていきましょう。
とくにアレルギーになることが多い犬種は注意が必要です。

  • 柴犬
  • シーズー
  • アレルギー体質の犬 ,etc…

呼吸器疾患・気道虚脱の発作誘発

呼吸器をつけた犬

犬が快適に過ごすことができる湿度は夏は40~60%、冬は50~60%を目安にするとよいと言われています。
梅雨の時期は湿度が80%を超えることがあるので、対策が必要です。

湿度が高い時は呼吸が苦しくなり、ハアハアと口を開けて呼吸するようになることがあります。
湿度が高くなると体内に溜まった水分が放出されにくくなり、体内に水分がたまり気味になってしまいます。
そのため呼吸器に影響が出てしまい、呼吸器系の病気や症状が悪化する可能性があります。

例えば気管支炎や気管虚脱といった病気は湿度の影響を受けやすく、湿度が高くても低くても症状が悪化しやすくなります。

慢性気管支炎は長期にわたって咳が続くことが特徴で、進行すると呼吸困難を引き起こしやすくなります。
梅雨の時期には気温や湿度の変化が大きくなり、症状が悪化しやすいため注意が必要です。

気管虚脱は気管の軟骨が弱くなった結果、気管の形が保てなくなり扁平になってしまい呼吸がしにくくなる病気です。
ガチョウの鳴き声のようなガーガーといった呼吸音が特徴です。
湿度が高くなると、気管の粘膜が腫れて、気管の直径が狭くなり呼吸が苦しくなります。

特に高齢犬は体温調節が苦手なため、呼吸状態が悪化しやすくなります。

フードによる消化器系統への悪影響

ドライとウェットのドッグフード

梅雨の時期には犬が食中毒を起こしやすくなるため、十分に注意が必要です。
高温多湿になると食品が傷みやすくなるうえに菌が増殖しやすくなり、食中毒を起こす原因になります。

食中毒を起こすとひどい嘔吐や下痢がおこり、特に高齢犬の場合は脱水症状が起こりやすく入院が必要になることもあります。

劣化によって食中毒を起こさないようにするためにはフードの管理が重要になります。

フード管理のポイント

  • 食べ残したフードは片づける
  • 食器はこまめに洗う
  • ドライフードは小袋を選ぶ ,etc…

愛犬を梅雨から守る「室内環境・観察ポイント・ルーティン」とは?

室内でくつろぐ小型犬

正しい室内環境を整備する

高温多湿の梅雨の時には、まず室内環境を整えてあげましょう。

犬にとって最適な環境は【温度:20~25℃、湿度:40~60%】です。
エアコンや除湿器などを利用して、温度と湿度の両面を整えていきましょう。

ただし、エアコンの温度設定を行っていても、室内の温度は床・天井・窓付近では異なります。
温度計や湿度計を犬の生活する高さに設置して確認してみることも大切です。
サーキュレーターを利用して空気を循環させると、室内の温度が一定になりやすいでしょう。

扇風機は汗が気化する時の気化熱を利用して涼しさを感じるものです。
人のように汗をかかない犬にとってはさほど涼しさを感じないものですので、扇風機だけに頼ることは禁物です。

愛犬の変化を観察する

犬は高齢になるにつれ体温調節が苦手になっていきますし、体調によって個体差も大きくなる傾向にあります。
冷房をつけている時に適温かどうか迷った場合は「愛犬の寝ている体勢・姿」を確認してみるとよいでしょう。

寒い場合の体勢 暑い場合の体勢
  • 丸くなり鼻をお腹に隠すようする
  • 尻尾で鼻を隠している
  • 震えている
  • 腹這いになり床に付けるようにしている
  • 呼吸が速い
  • 口を開けてハアハアしている

愛犬がエアコンの効いた部屋から出てしまう場合は、冷えを嫌っているのかもしれません。
自分で温度調節ができるように室内にクレートを置き、寒いと感じたらこもることができる場所も準備しておきましょう。

食事と水に注意する

食中毒を避けるためにも、食事を残してしまった場合は時間を決めて下げてしまいましょう。
特にウェットフードは腐りやすく、お腹を壊す原因になりやすいです。

ドライフードであっても油断は禁物です。
ウェットフードよりも日持ちはしますが、開け閉めする回数が多いとカビが生えたり細菌が繁殖しやすくなります。
割高にはなりますが小袋を購入するか、開封した際に小分けにすることで劣化の予防になります。
なお、ドライフードを冷蔵庫で保管すると、袋の中に結露が発生しやすくなります。
必ず冷暗所に保存してください。

また、水は新鮮なものをたっぷり飲んでもらいたいので、1日2回食事の際には交換しましょう。
濁っていたり、何か浮いている場合は都度変えてあげて下さい。

効果的なグッズなどを活用する

梅雨は湿気が多くじめじめ、ベトベトしがちです。
少しでも快適に過ごすためのひんやりグッズを利用するのもよいでしょう。
接触冷感の生地を利用した服やベッド、首に巻く冷却グッズなど様々なものがありますので、使いやすいものを用意してあげましょう。

壊れにくく、繰り返し利用できるものがおすすめです。

梅雨のシニア犬暮らしに関してよくある質問

涼しげな室内でくつろぐ小型犬

最後に、「we DOG」編集部に寄せられた「梅雨に関連する質問」に回答します。

Q.梅雨は冷房とドライ…どっちが良い?

エアコンの温度は20~25℃が適温と言われています。
湿度が高い時にはドライにしても良いでしょう。
設定温度を低くして閉め切ってしまうと寒くなりすぎることもありますので、部屋の広さや日差しの向きに合わせて、調節してあげて下さい。
特に短頭種の犬は夏が苦手ですので、空調を有効に利用しましょう。

冷えすぎた場合に犬自身が温度を調節できるよう、ブランケットなどを用意しておくと良いでしょう。

Q.朝晩の寒暖差があるけど、犬への影響はある?

梅雨の寒暖差は犬の体調に影響を与えます。
特に低気圧による自律神経の乱れや、湿度による体温調節の負担に注意が必要です。

Q.雨の日は散歩を休んでも良い?

雨の日の散歩は、犬の体調や気候を考慮し、散歩に行かないと排泄できない場合を除き無理に行かない方がよいでしょう。
なお、散歩後に身体の汚れを拭き取ったり洗ったあとは、よく乾かしてあげて下さい。

平松育子

獣医師/ペット栄養管理士

京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(当時)卒業。
県内の病院で代診を努めた後、2006年(有)ふくふく動物病院を開業し、院長を務める。2023年事業譲渡し、現在はペテモ動物病院に転職し院長を務める。
ペット専門の執筆・監修を担う「アイビー・ペットライティング」を設立し、代表を務める。

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