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2025/12/26

わかっているから、決められる。15年目の老柴介護で見つけた「家族としての介護(あい)しかた」

「できることは全部やる」
「この子の『好き』を大切にする」
佐々木さんご夫婦が愛犬Q太郎との暮らしで大事にしてきたこと。していること。
誰よりもわかっているから、決められる。
家族だから、介護(あい)せる。
15年目を迎えた老柴ライフ。

目次

はじまった「犬まみれの日々」

2010年10月26日。
当時は別々の出版社で締め切りに追われる編集者生活を送っていた佐々木広人さん・明子さん。
「いつか犬と暮らしたい、できれば日本犬がいい」
そんな話をしていた2人のもとへ、ついに生後2ヶ月の柴犬がやってきた。

▲生後2ヶ月、お迎え数日後のQ太郎

広人さん(以下「広」) 「千葉県のブリーダーさんへお伺いし、Q太郎に出会いました。歴史が好きなので、名前は『(山本)勘助』にしようと考えていたんですけど…」
●明子さん(以下「明」) 「Q太郎の顔を見た瞬間に、なぜか『Q〜!』って呼んじゃってて」

こうして、その小さな柴犬は『Q太郎』と命名されることになった。
どんなに忙しくてもプライベートを全力で謳歌してきた2人の生活は、この日を境にQ太郎中心のものへと完全にシフト。
そして、Q太郎愛は日増しに強くなっていった。

●明 「たくさんの雑誌をつくってきましたが…こんなにちゃんとつくった本はないかもしれません(笑)」
そう言って明子さんが見せてくれたのが、渾身の自作フォトブック『ぼくの名前は佐々木Q太郎』。
暮らしはじめた当初の「Q太郎と生活することが楽しくて仕方ない」という幸福感に満ちたスナップ写真と、「好き」が溢れた文章によって構成された、世界に数冊しか存在しない名著(?)だ。

▲「嬉しい楽しい大好き」が詰まった1冊

その主役であるQ太郎は…といえば、佐々木家での生活にしっかり順応し、すくすくと育っていった。

念願の柴犬ライフがはじまった当初、2人は定期的にQ太郎をドッグランへ連れて行っていた。しかし、他の犬と遊ぶことがそれほど好きではないという性格が露になるにつれ「静かな場所でのんびりする方が合っているのでは…」と考えるようになる。
そうして、週末には都心を離れて自然豊かな郊外でQ太郎と過ごすことが佐々木家のルーティンになっていったという。

▲生後4ヶ月のQ太郎。山形の温泉旅館にて。

明 「ケージに入れる必要のない別荘やホテルをよく利用していたんですけど、予約が取れない時もあるし…そもそも滞在できる時間が決まってることがストレスでした」
そこで2人は、車なら自宅から2時間弱で行くことができる郊外に、思いきって中古の別荘を購入することにした。

広 「我ながら『犬バカ極まれり』…ですけど。夏はエアコンが不要ですし、いつでも自由に歩き回れるので、Q太郎も気に入ってくれました」

▲別荘近くの庭を悠々と散策するQ太郎

吾輩はちょっとグルメである

パピー期には健康面で問題のなかったQ太郎だったが、1歳を過ぎた頃、アレルギーに起因する皮膚トラブルに見舞われるようになったという。

明 「春から夏にかけてお腹のあたりがただれて、ひどい時は手も真っ赤になってしまったんです…」
あらゆるアレルギーテストを行い、病院から指定されたフードに切り替えた。しかし…やはり美味しくないのか、Q太郎はあまり食べてくれなかったという。
そんなQ太郎を見て、2人は素直にこう思った。

「やっぱり、美味しいご飯を食べさせてあげたい」

そこから栄養管理士のレシピを参考にしたり、犬専用のフードメーカーに話を聞いたりと試行錯誤しながらメニュー開発に勤しんだ結果、その後10年以上も毎日朝晩欠かさずつくり続けることになるQ太郎の主食が完成した。

▲今も毎日つくり続けている特製・Q太郎ごはん

【レシピ】

① 小松菜、レンコン、さつまいも、かぶを刻んでレンジアップ
② 油をひかずフライパンで一口大に切った鶏肉にじんわり火を通す
③ ②に①を入れ軽く炒める
④ 火を止めて白飯を入れ、混ぜ合わせる
⑤ 余熱で鶏の脂を白米に馴染ませる

この手づくりご飯の効果は覿面だった。
Q太郎は毎日美味しそうにご飯を食べるようになり、その後は皮膚トラブルはおろか大きな病気になることもなかった。

明 「『絶対に手づくり食にしよう』と決めていたわけではなかったんですが、結果がすべてだと思います。美味しそうに食べるし、体調も良くなりました」
●広 「かかりつけの先生から了承をもらったとは言え、もちろん自己責任だと納得した上での判断です」
この一大決心は奏功したものの…10年以上も「毎日完全手づくり食」を続けるというのはそんなに簡単なことではない。

かつて明子さんが体調を崩し入院したことがあった。
ICUに入り、一時はかなり危険な状態になるも「Q太郎のごはんをつくらなきゃ!」との想いから回復に至ったという。
その間、広人さんがご飯を準備することになったのだが…Q太郎は「パパ、ちゃんと作れるの?」と心配そうな顔でキッチンを見に来ていたという。

▲2025年12月現在、今でもしっかり食べています

余談だが、この美味しいご飯によってすっかりグルメになってしまったQ太郎は、特にお肉に関しては一家言をお持ちになったそうで…。
以前キャンプに連れて行った時に、いつもより安価な輸入肉を焼いて差し出してみたところ、空腹だったにも関わらず、Q太郎は頑として食べなかったのだとか。

Q太郎が好き。

インタビュー中の2人からは「Q太郎が好きでたまらない。Q太郎の話をすることが楽しい」という想いが伝わってくる。そして、話はまだまだ止まらない…。

▲Q太郎のエピソードを楽しそうに話してくれる2人

明 「実はQ太郎、こう見えてもパパなんですよ」
●広 「でも産まれた仔犬に会いに行った時は、我が子そっちのけで…久しぶりに会った奥さんに『遊ぼう!』と絡んで叱られてました(笑)」

…きゅ、Q太郎。

明 「あ、あと。何度か去勢を考えたことがあったんですけど…」
●広 「毎回、手術の前日になると熱が出たり、突然カーペットを食べて吐いたりして、手術ができないんですよ。きっと嫌だったんでしょうね(笑)」

……きゅ、Q太郎。

▲全力で犬生を謳歌する3〜6歳頃のQ太郎

こうして、Q太郎は父親になったり、毎日リードをがちぎれそうになるほど引っ張ったり、別荘で自然を満喫したり、美味しいお肉を食べたりしながら、幸せな毎日を過ごしていった。

「ちぇ、イヤになっちゃうなぁ」

たっぷりの愛情と美味しいごはん、そして毎日2回の散歩のおかげで、前述したアレルギーによる皮膚トラブル以降は、大きな病気もなく健やかに暮らしていたQ太郎。
定期的な健康診断も欠かさず、10歳を過ぎてからもほとんど老いの兆候も見られなかったという。

▲Q太郎10歳の誕生日にプレゼントされたポートレート

ところが、14歳で迎えた2024年の夏を過ぎ、徐々に変化が現れてきた。かかりつけの獣医師に診てもらったところ、認知症の疑いも指摘された。

広 「夏が終わってからガクッときました。後ろ足の踏ん張りが効かず、よく転ぶようになりました」
●明 「胃腸も弱くなったのかな? 特に雨の日はお漏らしが増えました」

2人はあらゆる情報を集めて調べ、滑り止めマットやカーペットをいくつも試したがどれもしっくりこなかった。
最終的に、Q太郎がほとんどの時間を過ごすリビングルームには一面、毛布が敷き詰められることになった。

広 「毛布なら洗濯ができるし、どこで粗相をしても大丈夫なので」
とはいえ、Q太郎の洗濯物が急増したため佐々木家の洗濯機は稼働しっぱなしの状態となり、あまりにも使用量が増えたことから漏水を疑った水道局の人が確認に来たこともあったのだとか。
また、足腰が弱くなってきたことを受け、散歩の時に使用していた首輪もハーネスに変更した。

▲Q太郎流のイヤ柴

広 「最初は、頑として着けさせてくれなかったんですよ」
●明 「着けているところを知人から『Qちゃんカッコいいね!』と言われてからガラッと変わりました(笑)」

老いと、それに伴う変化に対して、Q太郎はどんな様子だったのだろう。

広 「その頃はよく『イヤになっちゃうなぁ』みたいな顔してなかったっけ?」
●明 「言ってた。以前はできていたことができなくなっていることに対して、悔しいというか照れ隠しというか、そんな感じだったんだと思います」

加齢によって視力や聴力も弱まり、テーブルに頭をぶつけることも増えたという。歩いていてもフラついて倒れ込んでしまったり、ごはんを食べていると顔が汚れてしまうこともあった。
そんな時、Q太郎は決まって「イヤになっちゃうなぁ」とでも言いたげな表情をしていたのだとか。

▲しっかりとシニア犬になったQ太郎

そんなQ太郎に対して2人は、老犬特有の「老いのかわいさ」を感じながら、これまで通り寄り添っていく。

広 「些細なこと、例えば…いつもより口角が上がった時とかが本当に嬉しい」
●明 「散歩していると、すれ違う人がQ太郎を見て微笑む。まわりまわって幸せのループになっている感じがします」
●広 「老犬生活1年目で随分と寛容になりました。でも、結局はこっちも幸せになるんです」

歩きたいけど歩けないQ太郎のために

▲雪の上を歩くのが大好きなQ太郎(2025年2月撮影)

2025年に入ると、夜間にはオムツを着けるようになる等、Q太郎はすっかりハイシニアらしくなっていく。
一方、2人は変わらず「Q太郎の好き」をサポートし続ける。

広 「Q太郎は、落ち葉の上と雪の上を歩くのが好きなんです」
だから、広人さんが実家の秋田へ帰省する時は、当然Q太郎も連れていく。
オムツ交換や休憩が増えたため、その道中は片道9時間半(!)にもなったけれども、雪の上を歩かせてあげたい。そして、雪上を嬉しそうに歩くQ太郎の姿を見たいからだ。

その後、Q太郎の「せん妄」が顕著になったため、興奮を抑えて心身をリラックスさせるべく「ジアゼパム(抗不安薬・鎮静薬)」を服用するようになった。
しかし、効果だけではなくフラつき等の副作用も酷くなってしまったという…。
そこで、医師とも相談した結果「使用は最小限にしよう」と決めたものの、以来、Q太郎は自力で歩くことはできなくなった。

▲取材日のQ太郎。たまにかわいくも意思のある声で2人を呼ぶ

広 「普段の散歩はカートに乗せて出かけるようになりました」
●明 「やっぱり外へ行くと喜ぶんです。風を感じたり、音も少しは聞こえているのかな?」

1日の大半を横になって過ごすようになったQ太郎は、滑りにくいヨガマットの上から「水が飲みたい」「オムツ替えて」「おなかが空いた」といった時に2人を呼ぶ。
中でも最も多い要求は「歩きたい」だ。

広 「走りたい、駆け回りたい、歩きたいんだろうなって。脚をバタつかせて歩くそぶりをするんですよ」
●明 「その時は、近くのテーブルの柱を軸にグル活をさせます。でも、しばらくすると遠心力でコケちゃうんです(笑)」

▲左側に体重を預け、柱を軸にグル活するQ太郎。

家族だからこそ、の介護(あい)しかた

しかし、これは微笑ましい介護エピソードでなない。「歩きたい」という要求は夜中でもお構い無し、何度も何度も求めてくるため、24時間体制で対応をしなければならなかった。

広 「夜は2時間も続けて寝られたら幸せですよ」
●明 「『今だっ!』と思ってお風呂に入っていると、鳴き声が聞こえて…びしょ濡れのまま駆けつけたり」

▲15年目を迎えたQ太郎との暮らし

そんな、綺麗事ではすまないハイシニア犬の過酷な介護生活、現在の2人はどう考えているのだろうか。

広 「介護に充てる時間(量)は最大限増やしてきました。その分、少し強度(質)を抑えてバランスを取っています」
●明 「そうしないと、こっちが先に参っちゃいます。私たちがダメになったらおしまいですから」
●広 「ずっとフルスロットルではいられない。どこかで力を抜かないと、介護という長期戦は戦えないと思います」

手を抜くのではなく、Q太郎のために少し力を抜く。
そうして「常に100点満点」の介護を目指さなくなっていったと言う。

広 「Q太郎はペットではなく『家族』です。家族なら、お互いのエゴをぶつけ合ってもいいでしょう。少しはこちらの都合もわかってくれよ、と」
●明 「その時にできることが、自分たちの精一杯だったと思うようにしています」

今日もQ太郎が2人を呼ぶ。
広人さんと明子さんは「おいおい、勘弁してくれよ〜」「えらいねー」「ごめん、お風呂入ってくるから待っててね」などと言いながら、15年目を迎えた犬まみれの日々を過ごしている。



取材が終わり、この原稿を書いている最中、2人から1本の動画が届いた。

▲お試しでレンタルした車いすで歩くQ太郎。

そこにはレンタルした車椅子に乗り、部屋の中をグルグル歩いてはたまにコケてしまうQ太郎の姿があった。

広 「10分くらいなら一人でコケずに歩いていられるので、だいぶ楽になりました」
●明 「よほど楽しいのか、舌が伸びきるくらい、疲れ果てるまで歩いています」
●広 「バカだなあとも思いますが…そんな姿もたまらなく愛おしいんです」

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