未病/健康習慣

2025/04/11

【愛情を行動に】愛犬が7歳を過ぎたら見直したいフード&未病・予防の健康習慣【獣医師取材】

愛犬が7歳を過ぎたら見直したいフード&未病・予防の健康習慣

犬種特性や個体差はあるものの、犬は一般的に7歳頃からシニア犬に分類されます。
シニア期に入った愛犬の身体に少しずつ起こり始める変化に対して、オーナー(飼い主)は何を知り、どのような備えや対策をするべきなのでしょうか?
健康寿命延伸のために必要となる食事の大切さや健康習慣、心構えについて獣医師として30年以上のキャリアを持つ平松育子先生に聞きました。

平松育子

獣医師/ペット栄養管理士

京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(当時)卒業。
県内の病院で代診を努めた後、2006年(有)ふくふく動物病院を開業し、院長を務める。2023年事業譲渡し、現在は大手動物病院に転職し院長を務める。
ペット専門の執筆・監修を担う「アイビー・ペットライティング」を設立し、代表を務める。

目次




7歳は「オーナーの健康意識」を変えるタイミング

犬の平均寿命が14歳を超えた現在、これから先の長いシニア犬ライフを幸せに過ごすためにはオーナーによる愛犬の健康管理が重要となってきます。

一見すると溌剌として若く見える犬であっても、7歳を過ぎれば身体の内部は少しづつ変化しはじめてきます。
人間が中年に差し掛かると健康診断に「成人病検診」が含まれるように、7歳はオーナーが愛犬の食事や健康習慣などを見直し、未病・予防を意識する大きな節目となります。

「うちのコはまだ大丈夫」であっても、数年先に迎えるハイシニア期に向けた準備だと考え、意識や行動を変えていきましょう。

何かが起こる前に…7歳になったら食事をシニア用に切り替える

大小2つのフード皿

平松先生はシニア期における犬の健康管理において、特に食事の重要性を説きます。

「シニア期に入った愛犬と暮らしている飼い主さんから頻繁に聞かれるのが『フードをシニア用に替えた方が良いでしょうか?』です。わたしは『すぐに切り替えてください』と回答しています」(平松先生 ※以下すべて同)

先生がそう回答する理由は、フードの早期切り替えにはメリットが多く、デメリットは無いからです。

シニア用フードは一般的に「低脂肪・高タンパク・高消化率」といった特徴を持っており、カロリーも控えめなものがほとんどです。

シニア期に入った犬は運動量や筋肉量の減少に伴い基礎代謝が減るようになっていくため、フードをシニア用に切り替えることで肥満リスクを軽減し、少ない食事量でも栄養が摂取できるようになります。

7歳くらいの時期であれば、外見上の変化がそれほど見られない犬は珍しくありません。また、愛犬のことを「若い」と言われて気を悪くするオーナーはいないでしょう。
それゆえ、7歳くらいの愛犬オーナーは「まだいいかな?」と考えがちです。
しかし、加齢とともに愛犬の身体は確実に変化しているのです。

「7歳になったから急に老ける、老いるということはありません。見た目と年齢が必ずしも釣り合わないのがシニア初期の難しいところだと言えます。だからこそ、年齢を基準に決めてしまうのが良いでしょう。何かが起こってから対応するのでは遅いのです」

シニア用フードの中には心臓や腎臓、消化器、関節などの加齢による変化を考慮した栄養内容になっているものも多くあります。
これまで食べてきたフードが変化することに拒否感を示す犬もいますが、愛犬の健康長寿を願うのであれば、何かが起こる前にフードを切り替えるという気持ちをもって臨みましょう。

「療法食」への切り替えに備える

フードの前で伏せているジャックラッセルテリア

シニア用フードと混同されがちなものとして「療法食」が挙げられます。
療法食は別名「処方食」とも呼ばれるように、獣医による診断に基づいて勧められる特定の効果を持ったフードのことを指し、食事療法で利用されます。

「シニア用のフードには、健康増進や●●配合などと謳われた『準療法食』という製品もあります。しかし、これらを獣医師が病気治療を目的とした療法食として薦めることはありません。また、そこで喧伝されている効果は療法食と比較すると弱いものです。療法食の代わりにはなりませんので注意してください」

あくまで獣医師が食事療法として勧めるのが療法食であると理解しておきましょう。

獣医から療法食の使用を提案された場合はこれに従うことになるのですが、療法食は一般的なフードに比べて味や風味が劣るため、愛犬の食いつきが良くないというネガティブな側面もあります。

「犬にも味覚があり、とくに甘みや旨味には敏感です。わかりやすく言えば療法食は犬にとって美味しいごはんではありません。そのため、すでに美味しいおやつやごはんの味を知ってしまった犬にとっては、療法食への切り替えが難しい場合があります」

「療法食を食べてくれない」というのも、平松先生がオーナーからよく聞く悩みの一つだといいます。
しかし、療法食への切り替えができない場合は、食事療法で治るはずの病気や症状であってもそれが叶わず、場合によっては手術が必要になってしまうケースもあり得ます。

これまでのフードに療法食を少しづつ混ぜ、その割合を徐々に増やしていく等、時間をかけてでも根気強く移行していきましょう。

犬は自分の健康状態を把握できないから

フードを食べているフェルテリア

平松先生はこう続けます。

「愛犬の食事を管理できるのは飼い主さんだけです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、それによって愛犬の運命も変わってしまいます」

「まだ若いし、どこも悪くないから…」
「美味しそうに食べているから…」
というオーナーの気持ちも理解できます。
しかし、食事管理を怠って好きなものや嗜好性の高いものを多く食べ続けた場合は、肥満や病気のリスクが高まり、いざという時の療法食への切り替えも難しくなってしまいます。

「人間であれば『このままでは人工透析になるから仕方ない…』等と考えることができますが、犬はそうではありません。嫌いなものは食べませんし、太っても自分の健康状態など気にしません。飼い主さんがリーダーとして愛犬の食事を管理するしかないのです」

この先の愛犬の健康を願うならば、時には強い心とオーナーシップで食事に向き合うことが求められます。

今日から実践したい…愛犬の変化を見逃さない健康習慣

食事管理の他にも、シニア犬オーナーにはぜひ実践してもらいたい健康習慣があります。

「愛犬の健康状態を把握するための習慣を持って欲しいです。飼い主さんが『何かがおかしい』と早めに気付くことができれば、その後の症状を軽減したり治療の選択肢が増えることもあります」

愛犬の変化にいち早く気付くために、シニア犬オーナーが実施すべき健康習慣について教えてもらいました。

【7歳以上】愛犬の定期的な体重測定で増減を確認する

ジャックラッセルテリア体重計に乗るオーナー

シニア期の健康管理において、シンプルながらも極めて重要なのが体重の管理です。
週に1回程度でも良いので定期的に体重を測り、その変化を観察することは肥満の防止や病気の早期発見において非常に有益です。

「食べているのに体重が減っている」
「少ししか食べていないのに、体重が大幅に増えている」
こうした矛盾がないかを観察してください。
小型犬の場合、適切な運動・食事が保たれているのであれば「±100g」程度の増減が一般的です。

平松先生はこれまでの経験から「7歳くらいのシニア前期ですでに肥満の子は赤信号に近い黄色信号だと感じています」と語ります。

「シニア期に食事管理ができずに太ってしまう。重い身体を支えるために関節に悪影響が出はじめる。立っていることが辛くなりやがて寝たきりになる。褥瘡(床ずれ)ができる。抱っこするのも難しくなる…といった負のループへ陥ってしまうケースを何度も見てきました」

シニア期に入った犬の肥満は様々な健康問題のトリガーとなり得ます。
体重の変化を注視しながら、愛犬を肥満から守りましょう。

砂浜で遊ぶダックスフンド

また、シニア期の体重変化には病気が原因となっている可能性もあります。

そのため、気になる体重変動が確認できた際は、迷わずかかりつけの獣医に相談してください。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や甲状腺機能低下症、循環器疾患や肝臓疾患などの早期発見につながる可能性もあるからです。

なお、愛犬がなかなか体重計に乗ってくれない場合は、愛犬を抱いた状態で測定し、人間の分を引くことで簡単に計測することができます。
体重測定を習慣化することで肥満を防止し、病気の早期発見につなげていきましょう。

【10歳以上】食事・排泄・呼吸・睡眠などの「変化を観察する習慣」

シートの上で寝るノーフォークテリア

10歳を目安としたハイシニア期になると様々な病気リスクが高まるため、これまで以上に「愛犬のちょっとした変化」を見逃さないように観察する必要があります。
具体的に、愛犬が10歳を過ぎたらどんなところをチェックすればよいのでしょうか。

「食事量や食べかた、排泄の回数や状態、咳の有無、歩き方、睡眠時間など…見るべき点はたくさんあります。それらの行動に『変化がないか』を意識して観察してください」

例えば、食事にかかる時間が増えたりごはんをこぼすようになったりしていれば、何らかの口腔疾患があるかもしれませんし、いつも通りに水を飲んでいるのにトイレの回数が減っている場合は腎機能の低下や尿路結石などの可能性が浮かびます。
また、咳をするようになったら循環器系や呼吸器系、歩き方が変化したら関節に問題があるかもしれません。

いずれの場合も早期発見が肝要なため、オーナーの「何かがおかしい」という気付きが愛犬の健康、時には命を守ることにつながります。

病気を治すのは獣医の仕事ですが、病気の兆候を誰よりも早く見つけられるのはオーナーなのです。

目に見えない変化を見つけるために「健康診断」を始める

前足を診てもらっているダックスフンド

続いて平松先生がシニア犬オーナーに薦める習慣が健康診断です。

「シニア期に入ったら動物病院を「何かあったら行く場所」だけではなく『定期的に健康状態を確認するために行く場所』だと思ってください」

内臓の機能などは、オーナーがどれだけ丁寧に愛犬を観察してもわかりません。シニア犬にとって、獣医師による定期的なメディカルチェックは必要不可欠です。

「シニアに入ったら年2回、ハイシニアであれば年に3〜4回くらいの頻度で来てもらいたいです。多いと感じるかもしれませんが、経験からこの基準はぜひ意識してもらいたいです」

定期的に診ることで数値の変化などをある程度予測できるようになるため、早い段階で食事療法などの対応が可能になります。

なお、健康診断の内容は年齢や健康状態にもよりますが、一般的に血液検査や尿検査、便検査、レントゲン検査などを行います。
1回あたりの費用はおよそ15,000〜20,000円と経済的な負担は増しますが、病気になってしまってからの治療費や手術費を勘案すれば、決して高額だとは言えないでしょう。

何より、診断結果に問題がなければ「愛犬が健康である」という安心感を得られます。

また、診断時に普段の生活で気になることを相談するなど、獣医師とのコミュニケーションが増えること自体にも大きなメリットがあります。

大好きな愛犬の健康のため…愛情を行動に変える

オーナーと草原で遊ぶ犬の後ろ姿

長い獣医師としてのキャリアの中で、たくさんのオーナーたちの「あの時、こうしておけばよかった…」を見てきた平松先生。

「少し厳しいお話もしましたが、ハイシニア期になってから後悔することのないように、愛犬の健康について意識を高めてもらえたら嬉しいですね」

「このおやつ、ちょっとあげすぎかな?」
「シニア用フードを少しずつ混ぜていこう」
「今週末から愛犬と一緒に体重に乗ろう」
「1度、健康診断に行ってみるか…」
「もっと愛犬がよく見える場所で仕事しよう」

愛犬と過ごすシニア期を豊かにするために、今日からできることがあればぜひ実践してください。

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