健康と病気の話

2025/10/28

犬がいびきをかくのはなぜ?シニア犬に多い原因と病気のサイン、家庭でできる対策

シニア犬のいびきには、筋力低下や肥満に加え、鼻炎や鼻腔内腫瘍、短頭種気道症候群、内分泌疾患、喉頭麻痺などの病気が隠れている可能性があります。

放置すると呼吸困難や急な体調悪化から、命に関わるケースも…

本記事では、犬のいびきの原因と見分け方、家庭でできる対策、そして受診の目安を解説します。

小林清佳

獣医師

日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科卒業。
複数のクリニックでの勤務を経て、2009年4月に杉並区宮前で現「モノカどうぶつ病院」を開院。
病院での診察のほか、往診にも対応している。

目次

犬のいびきはなぜ起こる? その仕組みと原因

一般的に犬のいびきは、気道が狭くなることで起こります。
通り道がせまくなると空気の流れが妨げられ、その乱れで粘膜や周囲の組織が振動して低い音が響きます。

気道が狭くなり、いびきが出る要因として考えられる原因を順に取り上げていきます。

加齢や内分泌疾患による筋力低下

年齢を重ねると首や喉を支える筋肉が弱まり、気道を広く保つことが難しくなります。
また、「クッシング症候群」や「甲状腺機能低下症」などの内分泌疾患では筋力が低下することも知られています。

フレンチブルドッグやパグなどの短頭種は、生まれつき鼻孔が狭く軟口蓋が長いため、構造的に呼吸しづらく、いびきが出やすい身体のつくりをしています。そのため加齢とともにいびきが現れることも少なくありません。

この変化が進むと、眠りが浅くなりやすく、日中の活力が落ちたり免疫機能が弱まるといった影響が出る場合もあります。

肥満による気道の圧迫

体重が増えると首や胸まわりにも脂肪がつき、気道を物理的に圧迫します。その結果、空気の通り道が狭くなり、呼吸がしづらくなることでいびきが強くなります。特に短頭種やシニア犬はもともといびきをかきやすいため、肥満が重なると症状が悪化しやすい傾向があります。

慢性的に呼吸が妨げられることで酸素を十分に取り込めず、すぐ疲れたり運動を嫌がったりする場合も。この状態を放置すると、首や胸まわりの脂肪が気道をさらに圧迫し、いびきが大きく・頻繁になる傾向があります。

このように肥満は呼吸器への負担を増やし、熱中症のリスクにもつながり、気道虚脱やさらには心臓への負担、麻酔や手術時にも危険性が高まるため注意が必要です。

鼻炎やアレルギーによる鼻づまり

犬の鼻炎は、ウイルスや細菌などの感染や、アレルギー、異物の吸引、鼻腔内腫瘍などが原因で鼻腔粘膜に炎症が起こる状態です。その結果、粘膜が腫れて鼻の通りが悪くなり、いびきが増すことがあります。

このような変化を無視して放置すると、鼻腔の通気性が悪化し、睡眠中だけでなく起きている間も呼吸が苦しくなることがあります。慢性化すると副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)を併発し、鼻汁が膿のように濁ったり、鼻の周囲が腫れることがあります。その結果、呼吸が苦しくなり、日常生活にも大きな支障をきたすことがあります。

寝姿勢や室内環境の影響

犬のいびきは、寝ている姿勢や周囲の環境によっても変化することがあります。

例えば、仰向けに寝ると舌や軟口蓋が重力で奥に落ち込み、気道が狭くなっていびきが悪化しやすくなります。逆に横向きやうつ伏せでは気道の閉塞が軽減され、音が和らぐケースもあります。

さらに室内の環境も重要です。乾燥した空気やホコリは粘膜を刺激し、鼻づまりやいびきを助長します。特に冬場は加湿器で湿度を40〜60%に保つと呼吸がしやすくなり、定期的な掃除や空気清浄機の利用も効果的です。

放置は危険!いびきの原因となる病気のサイン

鼻や喉の腫瘍

病名 鼻や喉の腫瘍
いびきが出る理由 鼻腔や喉にできものが生じ、
空気の通り道をふさぐ
主な症状 ●鼻血が出る
●片側だけ鼻が詰まる
●顔が腫れてくる
●呼吸が苦しそうになる
●いびきが急に大きくなる

腫瘍ができる原因としては、細胞の老化や遺伝的な体質、慢性的な炎症などが考えられます。特に高齢の犬では発生しやすく、急にいびきが強くなる・片側だけ鼻が詰まる・鼻血が出るといった変化が見られたら注意が必要です。

腫瘍が鼻や喉にできると、空気の通り道がふさがれていびきが出ます。進行すると顔が腫れたり、呼吸が苦しくなったりすることもあり、普段の寝息との違いがはっきり表れます。

睡眠時無呼吸症候群

病名 睡眠時無呼吸症候群
いびきが出る理由 気道が一時的にふさがり、
呼吸が止まる時間が繰り返される
主な症状 ●いびきが途切れて呼吸が止まる
●再開時に大きな音
●舌や歯ぐきが紫色になる(チアノーゼ)
●日中の元気がない

睡眠時無呼吸症候群は、肥満によって首まわりに脂肪がついたり、加齢で喉や舌を支える筋肉が弱ったりすることで起こりやすくなります。特にパグやフレンチブルドッグなど短頭種はもともと気道が狭いため、発症しやすい傾向があります。

特徴的なのは、いびきが続いたあとに呼吸が途切れ、しばらくして大きな音とともに再開することです。この間、酸素が十分に取り込めないため、夜間の睡眠が浅くなり、日中にぼんやりしたり元気がなくなったりすることがあります。重度になると、舌や歯ぐきが紫色になる「チアノーゼ」が見られ、命に関わる危険なサインとなります。

気管虚脱

病名 気管虚脱
いびきが出る理由 気管の壁がつぶれて
空気が通りにくくなる
主な症状 ●ガチョウの鳴き声のような
 ガーガーとした咳
●興奮や運動、暑さで悪化
●呼吸困難や失神

気管虚脱は、チワワやポメラニアン、ヨークシャーテリアなどの小型犬で多く見られる遺伝的な病気です。気管を支える軟骨がの弾力性が低下し、呼吸のたびに管がつぶれてしまうことで空気が通りにくくなります。その結果、特徴的な「ガチョウの鳴き声」のような咳が出たり、興奮したときや運動や暑さで呼吸が苦しくなったりします。

発症の背景には、遺伝的な体質や加齢、肥満や首への負担などが関係しているケースが多く、生まれつき重度の場合には普段の生活にも支障が生じます。食生活や生活環境、犬の性格によって後天的に進行することもあり、呼吸困難や失神を起こすこともあります。

喉頭疾患(喉頭麻痺・喉頭虚脱)

病名 喉頭疾患
(喉頭麻痺・喉頭虚脱)
いびきが出る理由 喉の入り口がうまく開かず、
空気の通り道が狭くなる
主な症状 ●活動時の「ゼーゼー」
「ヒューヒュー」とした音
●声がかすれる
●息切れ
●暑さや興奮で急に悪化

咽頭麻痺は中〜大型犬のシニアで多く見られる病気ですが小型犬でも起こり得ます。喉の入り口にあたる声帯や周辺の神経異や筋肉がうまく動かなくなり、気道を塞いでしまう疾患です。

咽頭虚脱は短頭種のようにもともと気道が狭い犬種でおこりやすく、普段から慢性的に陰圧がかかることでのどの奥が呼吸のたびにつぶれてしまい、空気の通り道が狭くなる疾患です。

これらの問題が生じるた結果、運動時に限らず「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音が出たり、声がかすれたりするのが特徴です。

いずれも空気の通り道が狭くなる点は同じで、進行すると少し動いただけで息切れするようになり、暑さや興奮で急に呼吸困難に陥ることもあるため注意が必要です。

心疾患・肺疾患

病名 心疾患・肺疾患
いびきが出る理由 心臓や肺の機能が低下して
呼吸が荒くなり、
気道に雑音が生じる
主な症状 ●荒い呼吸
●運動を嫌がる
●夜間に咳が増える
●横になると苦しそうにする

心臓や肺に異常がある場合も、いびきのような呼吸音が見られることがあります。例えば、心臓の弁がうまく閉じない僧帽弁閉鎖不全症では、血液が逆流して肺に水がたまり、呼吸が苦しくなることがあります。これは非常に危険なサインなのですぐにかかりつけの動物病院を受診してください。

一方、肺炎や気管支炎といった肺の病気では、炎症で空気の流れが妨げられて異常な音が出やすくなります。

このように、心臓病と肺の病気のどちらでも同じようないびきや呼吸音が出るため、飼い主が症状だけで区別するのは難しいのが実情です。サインとしては「夜間に咳が増える」「横になると苦しそう」「少し歩いただけで疲れる」などが共通して見られます。どちらも進行すると命にかかわるため早めの受診が欠かせません。

短頭種気道症候群(BOAS)

病名 短頭種気道症候群(BOAS)
いびきが出る理由 鼻が短い犬種特有のつくりに
よって、気道がふさがれやすい
主な症状 ●若い頃から常にいびき
●運動や暑さで悪化
●睡眠時の無呼吸

短頭種気道症候群は、パグやフレンチブルドッグ、シーズーなど、鼻先が短い犬種がかかりやすい病気です。生まれつき鼻の穴が小さい、口の奥にあるやわらかい部分(軟口蓋)が長すぎるなど、体のつくりによって空気の通り道が狭くなり、いびきが常に出やすくなります。

「ブーブー」「スースー」といった音を立てることが多く、飼い主さんから「かわいい寝息」と思われることもありますが、実際には常に呼吸がしづらい状態です。重度になると睡眠中に無呼吸になったり、運動中や暑い日に失神することもあり、熱中症のリスクも高まります。

内分泌疾患

クッシング症候群や甲状腺機能低下症といった、シニア犬でよくみられる内分泌疾患では、筋力の低下や神経異常などから、呼吸筋や気道に影響が生じていびきが出ることがあります。

症状としては加齢にともなう筋力低下などでみられるいびきと同じですが、内分泌疾患は進行すると全身にさまざまな問題を起こすため、早期発見と早期治療が勧められます。

愛犬のいびきを和らげるために、家庭でできること(原因別)

犬のいびきは病気のサインのこともあります。そのため異変を感じたら早めに受診しましょう。一方で、姿勢や環境など身近な要因で起こることもあり、これらは工夫次第で和らげられます。 以下では自宅での対策を紹介します。

これらの方法はあくまで自宅でできる補助的な対策です。いびきの背景には、腫瘍や睡眠時無呼吸症候群など、命に関わる病気が隠れていることもあります。自己判断で様子を見るのは危険であり、「いびきが急にひどくなった」「呼吸が止まる」「苦しそうにしている」などの変化が見られたら、すぐに動物病院を受診してください。

姿勢の工夫

仰向けは舌や軟口蓋が喉に落ち込みやすく、気道が狭まっていびきが悪化します。横向きやうつ伏せで寝かせると空気の通りがよくなり、音が軽くなることがあります。体に合ったクッションで頭を少し高くすると、さらに呼吸がしやすくなります。

※ただし呼吸器疾患を抱えている場合には犬が呼吸しやすい姿勢をとっていることがあります。そのような時に無理に姿勢を変えると呼吸困難を起こすこともあるため、いびき以外の症状(活動性の低下や食欲不振、呼吸速迫など)がみられる場合には早めに受診しましょう。

体重管理

肥満は首や胸まわりに脂肪がつき、気道を圧迫していびきを悪化させます。カロリーを抑えた食事と無理のない運動で体重を保つことが基本です。特に短頭種やシニア犬は呼吸器への負担が大きいため、日常の管理が欠かせません。

※肥満傾向がある場合に急に運動させると関節を痛めることがあるため、先に食事管理で体重を少し減らし、それに合わせて徐々に運動量を増やしていくことが理想的です。

鼻炎・アレルギー対策

ホコリや花粉、ハウスダストは鼻づまりを悪化させ、いびきの原因になります。こまめな掃除や空気清浄機の利用でアレルゲンを減らし、散歩後は被毛や足を拭くなどのケアも有効です。室内環境を清潔に保つことが、呼吸のしやすさにつながります。

※花粉症の季節は、花粉の飛散が少ない時間を選んで散歩をしたり、風が強い日にはアレルゲンやホコリが多く飛ぶため、お散歩を控えるなどの工夫も大切です。

室内環境の管理

乾燥や暑さもいびきを助長します。暖房は24~26℃、冷房は27~28℃設定。湿度は夏40%~冬60%前後に保ち、冬は加湿器で湿度40〜60%を目安に整えると呼吸が楽になります。季節や天候に応じて環境を調整することが、いびき対策として有効です。

首への負担を減らす

首輪で強く引っ張ると気管を圧迫し、気管虚脱などのリスクを高めます。散歩には首への負担を減らせるハーネスを使うのがおすすめです。日常的に首への圧迫を避けるだけでも、呼吸を助けることにつながります。

病院を受診すべきタイミングと準備

犬のいびきは必ずしも病気ではありませんが、次のような症状が見られるときは注意が必要です。

  • 睡眠中に呼吸が止まるように見える
  • 舌や歯ぐきが紫色に変わる(チアノーゼ)
  • いびきが急に大きくなった、または悪化している
  • 眠っていない日中も呼吸が荒く、元気がない

これらは呼吸障害が進んでいるサインであり、命に関わる病気の可能性もあるため、すぐに動物病院を受診してください。

受診前の準備

呼吸の異常は診察室では再現されにくいため、受診前に次の準備をしておくと診断に役立ちます。

  • 動画の記録:いびきや呼吸の様子をスマホで撮影しておく
  • 症状メモ:発症した時期、症状が出る頻度、悪化する時間帯などを書き留めておく
  • 持ち物:保険証やワクチン証明書、普段食べているフードや薬の情報

受診の際は、普段の様子や変化をできるだけ詳しく伝えられるようにしましょう。

【来院時の注意】

  • 胸や気道を圧迫しないように、抱っこではなくキャリーケースなどを利用(キャリーが苦手で吠えたり暴れたりしてしまう場合はNG)
  • 徒歩や自転車などで連れていく場合、真夏はキャリーケースに保冷剤を入れる

まとめ

犬のいびきには、加齢や肥満、寝姿勢や環境といった日常的な要因から、腫瘍や気管の病気など命に関わるものまで、さまざまな原因があります。

自宅でできる工夫で改善が見られることもありますが、それで「完全に安心」と思い込むのは危険です。「いつもと違う」「急にひどくなった」と感じたら、迷わず動物病院へ相談してください。

日頃から愛犬の呼吸をよく観察し、早めに行動することが、健康と命を守るいちばんの近道です。

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