健康と病気の話

2025/10/17

「マッサージって意味あるの?」に答えます!今日からできるシニア犬の愛情ケア

「シニア期を迎えた愛犬にマッサージをすると、どんなメリットがあるの?」

マッサージに「劇的な健康効果や、魔法のような症状改善」を期待するのは現実的ではありません。
しかし、シニア犬のケアやマッサージ指導に長年携わり、多くの飼い主さんから信頼を集める認定ペットケアマネージャー・ドッグアナトミー整体師の平端弘美さんはこう語ります。

「マッサージは、愛犬にとって気持ちいい時間になるのはもちろん、飼い主さん自身が普段から体に触れることで、小さな変化に早く気づけるようになります」(平端弘美さん ※以下同)

この記事では、平端さんに自宅でできるシニア犬向けマッサージの方法を詳しく教えていただきます。

平端 弘美

ペットケアマネージャー・ドッグアナトミー整体師

主に高齢犬の介護サポートやリハビリ、マッサージ、介護予防を伝えるセミナーなどを開催。
動物病院やイベント会場でのカウンセリングや高齢犬と暮らすご家庭への訪問なども行っている。

■Japanペットケアマネージャー協会認定ペットケアマネージャー
■ドッグメディカルトレーナー
■ドッグアナトミー整体師。

目次

【実践】今日からできる「家庭内マッサージ」

ここから自宅でも行えるマッサージをいくつかご紹介します。
なお、撮影時の負担を最小限にするため、3歳のモデル犬を起用しています。

▲モデル犬はトイプードルのなっとう(3歳♂)
  1. 【背中・腰回りのマッサージ】
    →散歩や普段の動作を維持する
  2. 【足先・肉球のマッサージ】
    →足先の感覚と可動域を保つ
  3. 【足の付け根(脇の下)のマッサージ】
    →足の可動域を守る
  4. 【耳下〜鎖骨(リンパ)のマッサージ】
    →首の疲れとリンパの流れをケア

「これらを実践するために『特別なテクニック』は必要ありません。毎日無理なく行うことで『今日はここが少し硬いかな』『いつもより触られるのを嫌がっているな』といった、普段との違いにすぐ気づけるようになります」

1.散歩や普段の動作を維持する
【背中・腰回りのマッサージ】

「背中や腰まわりのマッサージは、筋肉や関節の筋肉を伸ばし、リンパの巡りをサポートします。毎日ケアを続けることで、散歩や立ち座りといった日常の動きを保ちやすくしてくれます」

1.準備

犬がリラックスできる体勢で始めます。
ポイントは、犬が自分から逃げたり、驚いたりしない位置からやさしく始めることです。

2.手の位置

片手で犬の体を支えながら、もう片方の手で「チョキ」を作り、犬の首の後ろ(首の付け根あたり)にやさしく当てます。

3.動かし方

首から背中、腰、尻尾の付け根へと向かって、背骨の両脇をなで下ろします。
背骨は押さず、両側の筋肉をさするイメージです。力加減は手の重さが伝わる程度が目安。ゆっくり2〜3往復しましょう。

2.足先の感覚と可動域を保つ
【足先・肉球のマッサージ】

「年齢を重ねると地面を踏む感覚が鈍ったり足首が硬くなりやすくなるため、甲をこすって歩く『ナックリング』が生じやすくなります。
肉球と指を広げるマッサージに足首の軽いストレッチを組み合わせると、感覚と可動域の両方を保ち、ナックリングなどの足先のトラブル予防に役立ちます」

1.準備

犬がリラックスした体勢から、足先を無理なく触れる状態を作ります。

1.準備(手の位置)

犬の足先を持ち、もう一方の親指と人差し指で、肉球部分をやさしく持ちます。

2.動かし方

肉球を軽くつまんだまま親指を使って、指の付け根から先端に向けて小さな円を描くように一本ずつゆっくり指を開きます。
関節が硬い場合は、痛がらない範囲で可動域内だけ動かし、無理に伸ばさないようにします。

3.足の可動域を守る【足の付け根(脇の下)のマッサージ】

「脇の下や足の付け根にはリンパ節が集まっているため、マッサージすることで血行やリンパの流れを助け、皮膚や筋肉の柔らかさを保ちやすくなります。
また、普段から触れておくことで、腫れや張りなど、小さな変化も見逃しにくくなります

1.準備

犬がリラックスできる体勢で始めます。
飼い主さんが犬の横に座ると手を添えやすく、犬も安心しやすいです。

2.手の位置

片方の手のひら全体を、前足の付け根(脇の下あたり)に優しく当てます。
指先で押し込んだり挟み込んだりせず、軽く触れるだけで十分です。

3.動かし方

手のひらで皮膚を少しだけ揺らすように左右に動かします。
手のひら全体を使い、皮膚がわずかに動くくらいの優しい揺れを意識しましょう。

10秒ほど続けたら手を離し、左右、そして後ろ足も同じように行います。

4.首の疲れとリンパの流れをケア【耳下〜鎖骨(リンパ)のマッサージ】

「犬も人と同じで、頭の重さを常に首と肩で支えています。
そのため、首まわりや耳の下は知らず知らずのうちに凝りやすい場所です。耳下から鎖骨付近にかけてはリンパが集まる部位。やさしくなで下ろしてあげることで、首や顔まわりの筋肉を伸ばし、リンパの巡りをサポートします。

また、普段から触れていることで皮膚の状態や筋肉の張り、しこりの他、表情や動きの微妙な変化にもいち早く気づきやすくなります」

1.準備

犬が落ち着いた状態で、座るか横になる体勢を整えます。

2.手の位置

人差し指と中指の腹を、犬の耳の付け根(耳のすぐ下、首の横あたり)にやさしく添えます。
指先で強く押さず、指の腹で皮膚の上にふんわりと触れるだけで十分です。

3.動かし方

耳下に添えた指を、そのまま首筋に沿って、やさしくなで下ろしていきます。
首の付け根(胸の上あたり)までゆっくり下げる動作を、力を入れずに繰り返します。

円を描く動きよりも、「耳の下→首→首の付け根」へと線をなで下ろすイメージです。
首筋の皮膚をやさしく動かしてあげましょう。

「触れられること=心地よい」に慣れると、いざという時も安心

寝そべるラブラドール


マッサージによって「触れられることに慣れる」ことは、将来の大きな安心にもつながります。

「年齢を重ねて介護が必要になったときも、愛犬が『体を触れらること』にストレスを感じにくくなります。マッサージの習慣は、いざという時のための『準備』にもなっているのです」

また、マッサージによって「ごはんをよく食べるようになった」「撫でていると体が温かくなってきた気がする」といった変化を感じている、という飼い主さんの声も多く寄せられています。

科学的な根拠や数値で説明できることばかりではありませんが、マッサージを続けることで、そうしたポジティブな変化を感じる飼い主さんも少なくありません。マッサージを通した毎日のふれあいは、犬の健康を守るだけでなく、家族の安心や信頼関係を深めてくれる。そんな力があると思います」

寝たきりの大型犬でも…最期まで通い続けたご家族の想い

マッサージは、飼い主さんと愛犬の間にさまざまな変化をもたらします。
平端さんが特に記憶に残っているのは、寝たきりになった18歳の大型ミックス犬と、そのご家族のエピソードでした。

ご夫婦が愛犬を連れて月に一度、平端先生のマッサージに通い続けていた理由は、「歩けるようになってほしい」という期待ではなく、愛犬が少しでも穏やかな時間を過ごせるようにという想いからだったといいます。

「マッサージ中、その子は本当にリラックスした表情を見せていました。後からご家族に伺ったところ、その表情は自宅では見せたことのない穏やかな顔だったそうです。愛犬が最期を迎えた後も、ご家族は「やっていてよかった」と心からそう感じていらっしゃいました」

このようにマッサージのひとときが、愛犬とのかけがえのない時間となり、ご家族の心にも温かな記憶を残してくれることもあるのです。

今日から始める、無理しないマッサージ習慣

「特別な準備は必要ありません。たとえば、近くにいる愛犬を撫でているとき、ついでに少しマッサージも加えてみてください。そんな気軽な気持ちで充分です。週に1〜2回、1回3分でもまったく問題ありません。大切なのは習慣にすること。

また、顔を観察しながらそっと触れているうちに、いつもと違う反応や『ここを触ると気持ちよさそうだな』というポイントが見えてくることもあります。こうした気づきが、愛犬とのふれあいをもっと楽しく、心地よいものにしてくれます。

まずはできる範囲で、愛犬とのふれあいを楽しむ感覚で続けてみましょう。きっと、今まで気づかなかった愛犬の新しい一面にも出会えるはずです」

Pick Up ピックアップ