健康と病気の話
2025/10/24
【シニア犬の下痢】主な原因はストレス?受診の目安と日常ケアのポイント

「最近、愛犬が下痢をしやすくなったのは歳だから?」
こういった不安を感じているシニア犬の飼い主は少なくありません。
ただし、「加齢によって下痢をしやすくなる」と一概に決めつけるのは早計です。
「歳を取ったからといって腸の働きが急に悪くなるわけではありません。シニア犬は環境の変化や生活リズムの乱れなどに敏感になるため、ちょっとしたきっかけで下痢を起こすことがあります。つまり、環境の変化に伴うストレスを軽減することで、下痢を改善できる可能性があります」
そう話すのは、千歳船橋の「あむ動物病院」で消化器内科を担当する山田拓実先生。
今回は、シニア犬の下痢について、見極めのポイントや受診のタイミング、家庭でできるケアを山田先生に伺いました。
※この記事で取り上げる下痢は、命に関わる重度のものではなく、日常でよく見られるストレスが関わる下痢を中心としています。
山田拓実 獣医師
獣医師
神奈川県生まれ。日本大学卒業。
日本大学動物病院全科研修および内科専科研修を修了後、千歳船橋あむ動物病院に就任。
現在は総合内科、消化器内科、腫瘍内科を専門とし、日々診療にあたっています。
千歳船橋あむ動物病院 公式HP:https://am-ah.jp/
目次
下痢の原因は「年齢」より「食事などを含めた環境の変化によるストレス」のことも

「シニア犬に限った話ではありませんが、下痢の直前に普段と違う出来事が起きていることが多いです。たとえば、普段はいない家族が在宅している日が続いた、ごはんやおやつを変更した…などが例として挙げられます」(山田先生 ※以下、同様)
このほか、旅行やトリミング、ドッグランなど、いつもと違う場所や経験が続いた後に下痢が起きることも少なくありません。
「便の不調は、話せない愛犬からの大事なサインです。『最近ストレスになるようなことはなかったかな?』と振り返ってみてください」
家庭でできるケアと避けたい行動
環境の変化や日常の刺激は、シニア犬の体調を崩す大きな要因です。まずは身の回りの環境を整え、安心できる暮らしをつくってあげましょう。
大切なのは「暮らしの環境」と「食事・水分のケア」の2軸。愛犬が快適に過ごせるように、それぞれの工夫を紹介します。
環境を整えて
ストレスを減らすポイント

湿度と室温を一定に保つ
人と同様に犬も湿度が適切でないと不快感が高まり、ストレスを感じやすくなると思われます。湿度は夏場では60%を超えず、冬場では40%を下回らないように意識すると良いでしょう。
「人と同じように犬によって適温は異なるので、愛犬に合わせた温度設定を心がけましょう」
外出は短時間&徐々に慣らす
「ドッグランやトリミングへ行った後に血便混じりの下痢が出るのは、典型的な「ストレス性大腸炎」です。予防するには、まずはごく短時間だけ体験させ、回数を重ねながら少しずつ滞在時間を延ばす方法がおすすめです。帰宅後は便と食欲の変化を観察し、異変があれば早めに受診してください」
トイレのこだわりを尊重する
「『外でしか排泄しない』と強いこだわりをもつ犬に室内トイレを強要すると、ストレスで便に異常を招くことがあります。散歩に行けない日でも排泄のときだけ外へ出し、済んだらすぐ室内に戻すなど、犬が安心できる方法をとるのも選択肢のひとつです」
大掛かりな模様替えは段階的に行う
家具の配置を一気に変えると生活動線が崩れて落ち着けず、ストレスから下痢を起こすことがあります。模様替えは急がず、数日かけて少しずつ進め、愛犬が新しい場所でくつろげるか都度確認してください。
「シニア犬はいつもの場所が変わるだけでもストレスを感じます。大掛かりな模様替え自体を控えるほうが安心です」
胃腸にやさしい食事と
水分管理の注意点

水分管理は「新鮮な水」をこまめに
置き水は時間がたつほど雑菌が増えやすく、夏場は特に傷みが早まります。
朝と夕の2回以上は交換し、常に新鮮な水を用意しましょう。水が古くなると、犬が下痢をしやすくなったり水を飲まなくなったりする恐れがあります。
フードは少量ずつ&鮮度に注意
シニア犬は若い頃より消化機能がゆっくり働くため、一度に大量に食べると未消化のまま腸に流れ、下痢を起こしやすくなります。
便がゆるくなったなどあれば1回の量を減らし、食事回数を増やすことで負担を軽減できることがあります。
また、鮮度の落ちたフードは腸内細菌バランスを崩す要因になり得ます。
フードについては、以下のポイントを徹底することで下痢のリスクを下げることが可能です。
- ウェットフードやトッピングの食べ残しは早めに廃棄する
- 高温多湿の夏場等は食器も置きっぱなしにしない
- ドライフードは開封後1か月を目安に使い切り、密閉容器で涼しく乾いた場所に保管
- フードボウルや水皿は毎回洗浄し、清潔を保つ
フードの見直しは「年齢に合わせてゆっくり」
シニア犬にとって、脂肪分やたんぱく質が極端に多いフードは負担になりやすく、軟便や下痢のきっかけになることがあります。まずはシニア用の総合栄養食など、年齢に合わせて成分バランスを調整したフードへ切り替えましょう。
切り替えは急がず、これまでのフードに少しずつ混ぜながら量を調整し、数日かけて慣らしてください。
「療法食へ変更した際に食いつきが極端に落ちる場合は、体力が低下する前に一度元のフードに戻したうえで、獣医師と再度相談するのが安全です。自己判断での極端なフード変更や中断は避け、迷ったら必ずかかりつけ医に相談してください」
投薬の自己判断はNG
「以前処方された抗生物質を『余っているから』と自己判断で与えるのは避けてください。抗生物質の乱用は腸内の善玉菌まで減らし、耐性菌が増えて下痢を繰り返す体質に変わる恐れがあります。薬は必ず獣医師の指示に従いましょう」
ここまでのポイントを押さえておけば、ちょっとした環境変化でも下痢を起こしにくい土台が整います。
下痢でも受診が必要なケース

「下痢が1日で治まり、食欲や元気も普段通りなら様子を見ても大丈夫です。ただし、下痢が2日続く場合や黒い便(タール状)や鮮血の混じる赤い便が出た場合、元気がいつもより無いなどがあればすぐに動物病院へ連れて行きましょう」
ところが、「普段と違う便」と言われても、なにを基準にすればよいのか迷う方も多いはずです。
このようなときに役立つのが「糞便スコアチャート」です。便の硬さや形を1〜7の数字で評価できるため、飼い主と獣医師が共通の基準でやり取りしやすくなります。

「軟便かどうかは、スコアチャートを使えば客観的に状態を確認できます。写真やスコアのメモを診察時に持参すると、経過や変化がより正確に伝わります。『うちの子はスコア3〜4が標準』と普段から知っておくことで、ちょっとした変化にも気づきやすくなります」
スコアチャートは動物病院に置いてあるほか、ネットから無料でダウンロードできるものもあります。自宅で印刷しておくと、日常の便チェックにすぐ活用できるのでおすすめです。
「受診の際には、便の写真やスコアのメモに加えて、愛犬の元気や食欲、飲水量、嘔吐の有無、ふだん食べている食事内容なども一緒に伝えると、獣医師がより正確に状態を判断しやすくなります」
「いつもと違う」を見逃さない

下痢を防ぐためには、日常生活の中で愛犬が安心できる環境を整え、できるだけストレスを減らすことが大切です。
「スコアチャート」を活用して便や下痢の状態を記録し、普段の基準を知っておくことで、小さな変化にもすぐ気づけます。
下痢には一時的なものもあれば、重大な疾患の症状の1つであるケースもあります。
早めに気づいてあげることが、愛犬の元気を守る一番の近道です。
ぜひ日々の生活で心がけましょう。