健康と病気の話

2025/09/09

老犬のお腹がキュルキュル鳴る? 原因と対処・受診のタイミング

愛犬のお腹が「キュルキュル」と鳴る原因の多くは生理現象によるものです。ただし、病気のサインである可能性も否定はできません。
この記事では、お腹がキュルキュル鳴る原因や考えられる病気、受診の目安について解説します。

目次

犬のお腹がキュルキュルと鳴る原因は?

犬のお腹がキュルキュルとなる原因は、「腸の動き(蠕動運動)」と「腸内でのガスの発生」にあります。

通常の生理現象(空腹・消化時の音)

食事の前後にお腹からキュルキュル鳴る音が聞こえるのは、腸の動きが活発になっているサインです。
これは、健康な犬でもよく見られる現象で、空腹時や食後以外には緊張などでもお腹が鳴ることがあります。そのため、体調や排便に異常がなければ心配ありません。一時的に音が出るだけなら、生理的な範囲と考えて良いでしょう。

消化不良により腸内にガスが溜まっている

ストレスがかかったり加齢によって腸の運動機能が低下すると、食べ物をうまく分解・吸収できず、腸内でガスが発生しやすくなります。
脂肪分の多いフードや急な食事内容の変更、与えすぎなども腸への負担となり、お腹が鳴る原因になります。


空腹時や消化活動中に一時的に音が鳴る場合は問題ありません。
ただし、数日にわたって音が続く場合や、下痢や軟便、食欲の低下といった症状がある場合は、何らかの病気が原因で腸が異常な動きになっている、腸内でガスが発生していることが考えられます。

何日も続く・元気消失などの症状があれば「病気のサイン」

お腹が鳴るだけなら心配ありませんが、下記のような変化がひとつでも見られる場合は、病気の可能性もあります。
自己判断せず、まずは動物病院を受診しましょう。

  • 音が数日以上続く
  • いつもより元気がない
  • 急に食欲が落ちた
  • 嘔吐や下痢が続く
  • 便秘が長引いている
  • ヨダレが増えたりげっぷをする

これらの症状が見られる場合は、消化管の炎症や腫瘍などなんらかの異常により消化不良を起こしていたり、腸の動きが活発になっている可能性があります。

早期発見できれば、重症化を防ぎ治療も長引かずに済む病気もあるため、日頃からしっかり愛犬の様子を観察しておくことが大切です。

犬のお腹がキュルキュルと鳴る時に考えられる病気

お腹の音が続いたり、元気がなくなったり、明確な症状がある場合には、年齢にかかわらず消化器の病気が隠れていることがあります。さらにシニア犬の場合は、これらの中でも腸閉塞や胃拡張・胃捻転症候群よりも優先的に考慮すべき病気があり、早期発見と受診が特に重要です。

ここでは代表的な病気を紹介します。

  • 下痢や嘔吐、便秘が続く場合に注意したい「腫瘍性疾患」
  • 慢性的な体調変化や胃腸症状が続く場合に注意したい「代謝性疾患」
  • 嘔吐や便秘を伴う「腸閉塞」
  • 急激にお腹がパンパンに張る「胃拡張・胃捻転症候群」
  • 細菌やウイルスによる「感染性胃腸炎」
  • 下痢や軟便が長引く場合に疑われる「寄生虫感染」
  • 突然の食欲不振や元気喪失、嘔吐を伴う「膵炎」

下痢や嘔吐、便秘が続く場合に注意したい「腫瘍性疾患」

消化管や周辺臓器に腫瘍(がん)ができることで胃腸の動きが乱れ、お腹がキュルキュル鳴ることがあります。代表的なものに、消化器型リンパ腫や胃がん、その他の消化器系腫瘍などがあります。

腫瘍が腸の通過を妨げたり、炎症を引き起こしたりすると、腸内にガスがたまりやすくなり、蠕動運動が活発になって音が鳴ります。こうした状態では下痢や嘔吐が断続的に続く、食欲が落ちて体重が減ってきた、便秘と下痢を繰り返すなどの変化も見られることが多いです。

腫瘍性疾患は進行すると命にかかわることもありますが、早期発見で治療や症状の緩和が可能になる場合もあります。「年齢のせい」と自己判断せず、早めに動物病院で詳しい検査を受けましょう。

慢性的な体調変化や胃腸症状が続く場合に注意したい「代謝性疾患」

ホルモンや内臓の働きが低下する代謝性疾患も、シニア犬でよく見られる病気です。代表的なものには、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されるクッシング症候群、甲状腺ホルモンが不足する甲状腺機能低下症、そして腎臓病や肝疾患などがあります。

これらの病気では、全身の代謝や臓器機能の低下が胃腸にも影響し、消化がうまく進まずに腸内でガスが発生しやすくなるため、お腹がキュルキュル鳴ることがあります。

あわせて飲水量や尿量の増加、食欲や体重の変化、元気の低下、被毛や皮膚の異常、そして嘔吐や下痢、便秘などの消化器症状が出ることがあります。

進行はゆっくりですが、放置すると命に関わることもあります。特に水をよく飲むようになった、毛が薄くなってきた、なんとなく元気がない日が増えたといった変化が続く場合は、年齢による衰えではなく病気のサインかもしれません。お腹の音とこれらの症状が同時に見られるときは、早めに動物病院で血液検査などを受けて確認しましょう。

嘔吐や便秘を伴う「腸閉塞」

異物や消化できない食べ物が腸に詰まったり、消化管の腫瘍などで便の通過障害がおこると、消化物やガスが腸内に滞留し、腸が過剰に動いて音が鳴ることがあります。シニア犬は腸の運動低下により詰まりやすく、誤飲がなくても安心はできません。

腸閉塞の場合「嘔吐を繰り返す、便が出ない、お腹を触られるのを嫌がる」といった症状が現れます。放置すると腸壊死や命に関わる危険もあるため要注意です。

急激にお腹がパンパンに張る「胃捻転症候群」

胃拡張・胃捻転症候群は、まだ原因がはっきりわかっていません。胃の中にガスが急にたまり胃がふくらみ、それに続いて胃がねじれることで起こると考えられています。

完全な予防は難しい病気ですが、早食いや大食いをさせない、食後2時間は運動を控える、ドライフードはふやかして与えるなどが推奨されています。

特に胸の深い犬種で起きやすいと言われています。有名な犬種としては、ジャーマンシェパード、スタンダードプードル、グレートデンなどの大型犬ですが、トイ・プードルやミニチュア・ダックスも胸が深いためこの病気を起こすことがあります。


とても死亡率が高い病気で、いったん治療により一命をとりとめても再発が多いことも知られています。

急に元気がなくなり呼吸が早くなる、急な腹部の膨満、嘔吐しようとしても吐けない、ヨダレがでる、落ち着きがない、苦しそうな様子が特徴で、非常に危険な状態です。

細菌やウイルスによる「感染性胃腸炎」

細菌やウイルス感染で胃や腸が炎症を起こすと、下痢(水下痢、粘血便など)や嘔吐、発熱、ぐったりするなどの症状が現れます。シニア犬は免疫力が低下しているため、加齢に応じて感染リスクも高くなります。

水っぽい下痢や嘔吐を繰り返すと脱水症状を引き起こすことも。飼い主が脱水の有無を正確に判断するのは難しいため、こうした症状が1日以上続く場合や、ぐったりしている場合は特に注意が必要です。

下痢や軟便が長引く場合に疑われる「寄生虫感染」

コクシジウムやジアルジアなどの原虫のほか、回虫や鉤虫、鞭虫、条虫などが腸に寄生し、腸の動きが乱れてキュルキュルと音が鳴ることがあります。母犬からの感染、他の犬のフンや土の摂取、ノミの誤飲など、感染経路はさまざま。軟便や下痢が長引く、ご飯を食べているのに体重が減るといった場合は、注意しましょう。

これらの症状が見られる場合や、普段と違う変化を感じたときは、できるだけ早めに動物病院で診察を受けてください。

突然の食欲不振や元気喪失を伴う「膵炎」

膵臓が炎症を起こす「膵炎」は、炎症により自分の膵臓組織を壊していく病気です。

急性膵炎と慢性膵炎があり、急性膵炎は重篤で命にかかわることもあります。慢性膵炎の場合、炎症は激しくないため普段はあまり症状がみられないものの、膵臓の機能が徐々に低下し消化酵素の分泌が正常にできなくなるため食べ物がうまく消化されません。
その結果、未消化の食べ物やガスが腸内に溜まり、腸が過剰に動いて音が鳴ることがあります。

加齢による膵臓機能の低下や脂質の多い食事もリスクとなり、特に肥満傾向や高脂血症(脂質代謝異常)がある犬は注意が必要です。


代表的な症状としては、慢性膵炎ではときどき吐く、食欲にムラがあるなど特異的な症状はありません。急性膵炎では激しい嘔吐、食欲不振、元気消失、腹痛などが挙げられます。

慢性膵炎を抱えている犬は突如として急性膵炎になることもあり(増悪期)、1日に何度も激しく嘔吐する場合には注意が必要です。

犬のお腹がキュルキュルと鳴る時の対処法

犬のお腹がキュルキュルと鳴る場合、病気でなければ家庭でできる工夫もあります。消化不良を疑う場合、以下の方法を試してみてください。

胃腸に優しい食事に変える

消化不良が疑われるケースでは食事を見直してみましょう。
ドライフードの場合はぬるま湯でふやかす、消化器系に配慮したフードなどに切り替えて様子を見ましょう。また、これを機にシニア犬用のフードへ切り替えることで良い変化が得られる可能性もあります。どのようなフードを選択すればよいか悩む場合は、かかりつけ獣医師に相談しましょう。

1回の食事量を減らし、回数を増やす

食事の回数を1日2回から3〜4回に増やし、1回あたりの量を減らすことで、消化器への負担を軽くし、空腹時のキュルキュル音も防げる可能性が高まります。
与える総量が増えないように1回の食事量をしっかり管理するように注意してください。

ストレスを避ける

環境の変化や不安が続くと腸の動きが乱れ、音が出やすくなります。
具体的なストレスの軽減法として「来客や騒音を減らす・留守番を短くする」などを意識し、愛犬が安心して過ごせる環境づくりを心がけましょう。

例えばトリミング後に必ずお腹が鳴ったり便が緩くなる子もいます。そのような場合にはトリミングの頻度を減らしたりなどの工夫もよいでしょう。

お腹の音が長引く、他の症状が出たら受診

お腹のキュルキュルという音が長引く、あるいは下痢・嘔吐・元気消失などの症状がある場合は、早めに動物病院を受診してください。早期発見・早期治療が、愛犬の健康を守る鍵となります。

「お腹の音」だけに頼らず、日々の変化をしっかり観察しよう

シニア犬のお腹がキュルキュル鳴るのは、加齢による自然な変化から病気のサインまで、さまざまな原因があります。音だけで異常かどうかを判断するのは難しいため、普段から愛犬の元気や食欲、排便の状態をよく観察しておくことが大切です。

「いつもと様子が違う」と感じたときは、自分で判断せず早めに動物病院を受診しましょう。ちょっとした変化の気づきが、愛犬の健康維持につながります。

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