特集
2025/08/22
【必修! シニア犬×熱中症】発症・重症度の見極めと応急処置

体温調節機能が低下している老犬にとって「熱中症」は、時に命に関わるほど深刻な問題です。気象庁は本年2025年は9月まで平年よりも高い気温になると予想しており「もうすぐ夏も終わるし…」「うちの子は暑さに強いから大丈夫」といった油断は大敵です。
愛犬の命を守るため、熱中症の初期症状や判断基準、予防法から応急処置について、獣医師として30年以上のキャリアを持つ平松育子先生に教えてもらいました。
平松育子
獣医師/ペット栄養管理士
京都市生まれ。山口大学農学部獣医学科(当時)卒業。
県内の病院で代診を努めた後、2006年(有)ふくふく動物病院を開業し、院長を務める。2023年事業譲渡し、現在はペテモ動物病院に転職し院長を務める。
ペット専門の執筆・監修を担う「アイビー・ペットライティング」を設立し、代表を務める。
【所属学会】
・日本獣医皮膚科学会
・獣医アトピー・アレルギー・免疫学会
・日本ペット栄養学会
【取得資格】
・獣医師免許
・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター
・日本ペット栄養学会認定 ペット管理栄養士
目次
「熱中症」について絶対に知っておきたいこと

犬の熱中症は6〜9月くらいまでと、比較的長い期間において注意が必要です。
まずは愛犬を守るために、熱中症について絶対に知っておきたいことをまとめました。
平熱よりも体温が2度高くなった場合は熱中症を疑う

犬の平熱は小型犬の方が大型犬よりもやや高いものの、平均すると38〜39度です。
目安として体温が40.5度を超えていたら、熱中症の可能性があると考えられます。
「平熱よりも体温が2度高い場合は熱中症の可能性が高いと言えます」(平松先生 ※以下同)
愛犬の平熱を知らない、病院以外で検温したことがないといった人も多いと思います。
しかし、平時に愛犬の平熱を測っておくと、異常時の変化にも気づきやすくなるため、この機会に検温してみることをおすすめします。
愛犬の検温には犬用の体温計を使用するのがベストですが、人間用のものでも使用できます。直腸を傷つけないように肛門に水平に2〜3cm挿入して計測しましょう。
シニア犬はなりやすい?熱中症が起こりやすい犬の特徴

どの犬種においても予防・対策は重要であるものの、熱中症になりやすい犬種は存在します。また、肥満や持病によって発症率や重症化にも影響があります。
一般的に、熱中症リスクが高いと言われるのは以下の特徴を持つ犬となります。
特徴 | 犬種 理由 |
---|---|
短頭種 | パグ、ボストンテリア、フレンチブルドッグ ,etc… ※鼻口部が短く気道が狭いため |
ダブルコートや 被毛が厚い犬種 |
ポメラニアン、柴犬、Gレトリーバー ,etc… ※被毛で熱を逃がしにくいため |
寒冷地が 原産国の犬種 |
ポメラニアン、柴犬、Gレトリーバー ,etc… ※被毛で熱を逃がしにくいため |
短足犬や 超小型犬 |
コーギー、ダックスフンド ,etc… ※地表の熱の影響を受けやすいため |
肥満犬 | ※皮下脂肪に体内に熱がこもりやすいため ※脂肪によって気道が圧迫されるため |
シニア犬 | ※体温調節機能が衰えるため ※持病によって循環機能や呼吸機能の低下があるため |
例えば「高齢で肥満傾向にあるコーギー」のように、当てはまる要素が複数ある場合は、特に注意する必要がありそうです。
車中で発生した熱中症は「命に関わる」と心得てほしい

ご存知の通りエンジンを切ったクルマの中は短時間で驚くほど高温になり、熱中症が急激に進行する環境です。
「車内で発症した熱中症は重篤化しやすい傾向があり、命に関わることも少なくありません」
熱中症は、意識障害が出るほど重篤な症状になった場合は命に関わります。
「少しの時間だから」「窓を開けているから」と、愛犬を車内に残したまま離れるのは絶対にやめてください。
熱中症は屋外・屋内どちらでも発症する
「熱中症」とは高体温や脱水状態によって臓器や脳機能に障害が出る危険な症状のこと。
直射日光がある屋外はもちろん、高温多湿な環境になりえる屋内においても注意が必要です。
「私の経験上、熱中症が発症する場所は屋内・屋外(自宅)で50%づつといった印象です。室内環境にも注意してほしいですね」
エアコンを活用しながら【室温26〜28度前後・湿度50%前後】程度の環境を維持し、必要に応じて冷却マットなどを使用するなど、自宅でも熱中症対策をしっかりしましょう。
熱中症のサインは?初期症状から重篤な症状まで
ここからは愛犬を熱中症から防ぐ、そして重症化させないための代表的なサインを紹介します。
熱中症の主な症状
- 過剰なパンティング【熱中症初期症状の可能性】
- ヨダレを大量に垂らす【熱中症初期症状の可能性】
- チアノーゼ(舌の色が紫色になる)【熱中症を発症している】
- 嘔吐・下痢・血便【熱中症を進行している】
- 動かない・意識が朦朧としている【一刻も早く病院へ】
「熱中症は重症化すると命に関わる可能性があるため、早期に変化に気づくことと、症状によっては一刻も早く病院へ連れていくことが重要です」
注意深く観察することで、些細な変化も見逃さないように覚えておいてください。
1. 過剰なパンティングは熱中症初期症状の可能性

「パンティング」とは、口を開けて舌を出しながらハァハァと呼吸する、犬が体温を下げるために行う一般的な行為です。
このパンティングがいつもより激しかったり、なかなか収まらない場合は体温がかなり上昇している、または、うまく体温を下げることができていない可能性が高い…つまり、熱中症の初期症状であると考えられます。
普段のパンティングや、激しい運動した後の激しいパンティングをよく観察しておき、これらとの違いを判断できるようになりましょう。
2. ヨダレを大量に垂らす場合も熱中症の疑い有り

視認しやすい熱中症の初期症状としては「大量のヨダレ」もその一つだと考えられます。
「ヨダレが多い大型犬の場合は分かりにくいかもしれませんが、大量のヨダレは異常なサインの一つだと意識してください」
大型犬の場合はパンティングと合わせて確認するなど、夏の間は注視する必要があります。
3. チアノーゼ(舌の色が紫色になる)は要注意!

健康な犬の舌はきれいなピンク色をしています。ところが、熱中症で換気(呼吸)がうまくできなくなると舌の色が濃くなり、さらに悪化すると紫色へと変色していきます。
「これは熱中症が進行しているサインです。平時の愛犬の舌の色を覚えておくと、変化に気付きやすくなります」
愛犬の舌が紫色になっていたら、様子見せずに迷わず動物病院に連れて行きましょう。
4. 嘔吐・下痢・血便などは危険信号

体温が高くなり、内臓がダメージを受けると嘔吐や下痢、場合によっては血便が出ることもあります。
これらの症状は、熱中症の重篤なサインと考えられるため、様子を見ずに病院へ連れて行きましょう。
5. ぐったりして動かない・意識が朦朧としているならすぐに病院へ

熱中症が進行するとぐったりとし、意識が朦朧としていきます。
普段の疲れた時とは様子が違う、散歩から帰ってきていつまでも元気がない…そうした場合、事態は一刻を争います。速やかに病院へ連れて行ってください。
命を守る!老犬の熱中症・応急処置マニュアル

愛犬が熱中症になった場合、必要な処置は「体温を平熱まで下げる」こと。
これは応急処置に関しても同様です。
「ただし、これから紹介するのはあくまで応急処置です。回復したように見えてもしばらくは目を離さずにしばらく様子を見てください」
的確かつ迅速な対応・処置によって重症化を防ぐことができる可能性は高まります。
ぜひ以下の対応を覚えておいてください。
【Step 1】 まずは涼しい場所に移動させる

散歩中など、屋外で熱中症が疑われる場面では、すぐに日陰や風通しの良い場所へ移動させる必要があります。
抱っこをするなどして家に連れて帰ることが可能であれば、そうしてください。
愛犬が大型犬であったり、お散歩に行った方が体力的に連れて帰ることが難しい場合は、できるだけ涼しい場所に移動してから、助けを求めましょう。
そのため、たとえ近場への散歩や外出であっても、夏場は携帯電話(スマホ)を持って行くことを推奨します。
自宅で「熱中症かも?」と思ったら、直射日光がなく、エアコンが効いた涼しい部屋へ連れていってください。
【Step 2】 太い血管(首や脇の下)を冷やす

保冷剤などがあれば、太い血管が通っている場所を集中的に冷やします。
効果的な部位は首、脇の下、内股です。
「首の背中側を冷やしている人をよく見かけますが、喉側を冷やしてください」
なお、保冷剤を使う際は薄いタオル等で巻いて、直接皮膚に当てないようにしましょう。
【Step 3】 全身を濡らす(緊急時)

ぐったりして意識がはっきりしないなど、緊急を要する場合は身体に常温の水をかけて全身を冷やすのが有効です。
その際は被毛の上からではなく、地肌に直接かけるようにしましょう。
水で濡らしてから風を当てることで、「気化熱」の原理で体温を下げることができます。
【Step 4】 水分補給をさせる

意識があり、水を飲める状態であれば、少しずつ水を与えてください。
ただし、飲んだ水をすぐに吐いてしまう、水を欲しがらない場合は無理に与えるのはやめましょう。
【応急処置の注意点】 冷やしすぎると「低体温症」に
応急処置によって体温を下げる際は「低体温症」を引き起こす危険もあります。
「体を冷やしていると体温が急激に下がることがあります。39.5度を下回ったら、それ以上冷やすのはやめましょう」
もし体温が下がりすぎた場合は、タオルで体を拭いて毛布をかけてあげたり、ドライヤーで体を温めてあげるなどして、体温を元に戻す処置が必要になります。
残暑もしっかり予防!老犬の熱中症対策

1. 散歩は時間とコースを厳選する
夏に散歩をする時間帯は、気温も地面の温度も上がっていない早朝がおすすめです。
また、散歩に行く場合は、保冷剤や多めの水に持っていくなどすると良いでしょう。
「犬は『今日の気温や湿度』がわからないため、飼い主さんの判断が重要です。危険だと感じた場合は『行かない』という選択もあります」
夕方に気温が下がっていた場合でも、地面に熱が残っていることがあるため、歩かせる前に触ってみると良いでしょう。
散歩コースは日陰が多い場所を選び、異変があった場合はすぐに引き返せる距離にしておくと安心です。
2. 室内の温度・湿度管理を徹底する
熱中症は屋外だけでなく、室内でも起こります。
自宅であれば、愛犬の留守番中にエアコンが切れてしまうケースが危険です。
エアコンのタイマー設定や停電、故障といった思わぬアクシデントに備え、常に愛犬にとって快適な環境である【室温26〜28度前後・湿度50%前後】を維持できるよう心がけましょう。
3. 適切な水分補給をさせる
普段から新鮮な水をいつでも飲めるようにしておくことが大切です。
「冷やしすぎた水はお腹を壊す原因になり得ます。常温で良いので、こまめに交換してあげる方が良いでしょう」
シニアになると飲水量が減ることもありますが、あまり水を飲んでくれない場合は、水分含有量の多いフードやおやつを与える方法も効果的です。
4. 加齢とともにリスクは上がると心得る
愛犬の加齢とともに熱中症のリスクは高まると思ってください。
「犬は1年間で人間の約4年相当の年齢を重ねています。去年の元気な姿を基準にするのは危険です」
たとえ見た目が変わっていないとしても身体は確実に老いています。
「去年はこのくらいの気温でも元気に散歩していた」などと楽観視することなく、年齢相応の対策を講じましょう。
老犬の熱中症についてよくある質問

最後に、熱中症についてよくある質問をまとめました。
Q. 体温の測り方について詳しく知りたい
犬の体温は直腸温を計測するのが一般的です。
人間用を使用することもできますが、犬用の体温計があればベターです。
愛犬が動きまわらないように落ち着かせてから、体温計を肛門に2cmほど、水平に差し込みましょう。
上手に計測できない場合は非接触型の体温計を利用し、耳などで計測することも可能です。
Q. 熱中症対策はいつまで行えばよいですか?
気象状況や居住地、室内環境によりますが…一般的に6〜9月は熱中症リスクが高いと考えてよいでしょう。
ただし、平松先生のご経験では5月のG.W明けに熱中症の診察をしたケースもあるといいます。これらを目安に、気象状況などと照らし合わせて愛犬を観察してください。
Q. 熱中症だと思ったら水風呂に入れるのが良い?
昔は水風呂に入れるという処置もあったそうですが、体温が急激に下がりすぎ「低体温症」になるリスクがあるため現在は推奨されていません。
体温は緩やかに下げていき、39.5度程度まで下がったら様子を見るようにしましょう。
Q. 熱中症で病院に行った場合はどのような治療をしますか?
まずは身体を冷やして体温を下げつつ血液検査を行います。
高体温によって肝臓や腎臓、脳などの内臓がダメージを受けていたり脱水状態の場合は深刻な事態に陥る可能性があるためです。
症状によっては、点滴や入院が必要になる場合もあります。