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2025/08/26

車椅子に乗ってもう一度走る。「前脚麻痺」の愛犬を支える試行錯誤の日々

11歳の時に「脊髄空洞症」を発症したチワワのさくら。少しずつ前脚に麻痺が現れ、今では両前脚が「X」を描くように交差し、足取りはおぼつかない。しかし、さくらは歩くことを決して諦めない。
そしてオーナーの森谷さんは、さくらの「歩きたい」という気持ちに応えるため、転倒防止用に自作したクッション(通称・亀甲羅クッション)やオーダーメイドの車椅子をはじめ、さまざまな試行錯誤を重ねてきた。

さくらのプロフィール

●犬種:チワワ
●年齢/性別:16歳の女の子
●既往歴
・9歳、 「肥満細胞腫」が見つかり摘出
・10歳、「乳腺腫瘍・子宮蓄膿症」が見つかり摘出
    「脳炎」を発症、治療の末寛解
    「僧帽弁閉鎖不全症」と診断され現在も治療中
・12歳、「脊髄ヘルニア」になり治療の末寛解
・13歳、「脊髄空洞症」を発症し、現在も治療中
・15歳、「胆嚢粘液嚢腫」を発症、現在は寛解
・16歳 「気管虚脱」を発症、こちらも寛解

目次

麻痺によって左右非対称になった前脚

▲麻痺した右前脚を庇った左脚は太く、長くなっている

「脊髄空洞症」とは、何らかの原因で脊髄内にできた空洞が脊髄内の神経を圧迫し、身体に麻痺が生じる病気。

さくらの場合、とくに右前脚に麻痺が生じたため、体重を支えることになった左前脚の筋肉が発達して太くなった。また身体の歪みによって左前脚の方が少し長くなった。

さらに病気の進行とともに歩くことが難しくなったというが、それでもさくらは前を向いて進もうとする。

「さくらは気が強くて負けず嫌い、そして頑張り屋さんなので歩くと決めたら歩くんです」

その気持ちの原動力となっているのは、一緒に暮らすミニチュアダックスフンドの凛(4歳)とチワワのわさび(1歳)の存在だと森谷さんは話す。

「さくらはひとりだと歩かないけど、みんな一緒だと歩きたがる。
凛もわさびも、さくらが歩こうとすると、まるで『一緒に歩こう』と言うようにそばにいてくれるんです」

そんなふたりのことを「さくらの応援団のよう」と笑って話した。

▲河川敷を一緒に歩く凛、さくら、わさび(左から)

「とくに凛はさくらのことをよく見ている。さくらの呼吸がおかしくなると『落ち着いて』と近くに来て舐めてくれるし、さくらが何かしようとすると近くに来て見守ってくれるんです」

そして森谷さんもまた、さくらの歩きたい気持ちに応えるためにマッサージを試したり、「通称・亀甲羅クッション」を自作したり、さまざまなケアを試してきた。

“売れ残りセール犬”だったさくら

▲迎えた当時のさくら

さくらとの出会いは15年前。森谷さんはたまたま立ち寄ったペットショップで「売れ残りセール」と書かれたポップを目にした。

売り場を見に行くと、そこには周りの子犬たちより一回りも大きい、生後7ヶ月のチワワがいた。店員によると、病気など特別な事情があったわけではなく、成長するにつれて飼い主が見つかりにくくなっているとのこと。

さらに「ケージの隙間から脱走する癖がある」「気がつくとダックスの子と一緒にいる」と、さくらのいたずらっ子な一面を話した。

「このままだとこの子はどうなってしまうのだろう」と心配した森谷さんは、当時ミニチュアダックスフンドのみみ(1歳)と暮らしていたこともあり、「うちの子とも相性が良いかもしれない」とさくらを迎えることにした。

ふたりは歳も近く、本当の姉妹のように一緒に遊んだりくっついたり、散歩に行けば河川敷を一緒に走り回った。

▲手前:みみ/奥:さくら

それから10年後、みみは口腔メラノーマを患い亡くなってしまった。ある時期から左頬に腫れが見られるようになり、検査した時にはすでに肺にも転移していた。

みみが亡くなり、寂しそうにしていたさくらのために迎えたのが、同じミニチュアダックスフンドの凛だった。そしてその3年後、チワワのわさびも家族に迎えた。

凛とわさびは、家にやってきた時からさくらに興味津々で、積極的に絡みにいっていた。

さくらはそんな2人に対して、はじめの頃は受け入れられずに怒ることもあったというが、日々を共に過ごす中で心を開くようになり、今ではごはんも散歩もみんな一緒。かけがえのない家族になった。

13歳で脊髄空洞症を発症

シニア期に入ったさくらはいくつもの病気を患うようになった。9歳で肥満細胞腫、10歳では乳腺腫瘍や子宮蓄膿症、僧帽弁閉鎖不全症と、次々に病気が見つかった。

そして、脊髄空洞症を発症したのは13歳のとき。じつは、10歳で乳腺腫瘍と子宮の摘出手術を受けてから、前脚の付け根あたりを掻くことがあった。

はじめは「手術跡が痒いのだろう」と気に留めなかったというが、その頻度は2カ月に1回、1カ月に1回、2週間に1回…と次第に高まっていき、やがて散歩中にひっくり返って掻いたり、泣きながら掻くことまであった。

「この仕草は散歩中や動いた時に多くて、突然転がって掻き始めると止まらない。なのに、治まると何事もなかったように歩き始めるからおかしいなと思ったんです」

森谷さんは症状が現れている時の様子を撮影し、病院に向かった。

先生からは「脊髄空洞症」の可能性があると告げられた。

正確な診断にはCT検査が必要だが、年齢を考えると全身麻酔のリスクが大きいため検査には踏み切れなかった。症状が軽いことも踏まえて、少量のステロイド薬を服用するところから治療が始まった。

ただし、ステロイド薬には副作用がある。

少量を服用するようにしていたが、治療を開始して2ヶ月ほど経った頃に肝臓の数値が急激に上がってしまった。

これはステロイド薬によって胆汁の粘度が高まり、胆嚢や胆管に詰まりやすくなったことで、肝臓に負担がかかり数値に現れたのだった。

「でもステロイドの量を減らすと身体を掻いたり泣いたり、神経過敏症状が出てしまうんです。だから安易に減らすこともできない…」

森谷さんは先生と対応方法を相談しながら、自分でもできることを探した。

そんな中、友人から肝臓と腎臓ケアのサプリメントの存在を教えてもらい、先生にも相談した上で服用することにした。

飲み始めてからは、なんとか肝臓の数値は基準値内に回復。

それ以来、森谷さんはサプリメントでのケアにも興味を持つようになり、抗炎症作用のあるCBDオイルやクジラオイル、アンチノールも試してみたというが、オイル系のサプリメントはさくらがお腹を壊しやすかったため止めた。

現在は、先生から勧められた筋肉維持作用のある「マッスルブースター」と、皮膚や被毛の健康維持作用のある「ミラネストゼリー」を与えているという。

進行する麻痺への対抗

脊髄空洞症は完治することがない病気で、麻痺症状は少しずつ進行していく。さくらの場合は、足の甲を地面につけて歩く「ナックリング」が見られ、やがて前脚が内側に入り込むようになった。

森谷さんは「さくらが少しでも歩きやすくなるなら」とマッサージや筋膜リリース、電気鍼治療など、できることを試していった。

▲現在は月1回、訪問型マッサージ『Hanta』さんに施術をお願いしている

麻痺した身体を庇うために余計な力が入り、筋肉が凝っていたため、マッサージは効果的だった。

「マッサージの後の散歩ではよく歩けますよ」

しかし、麻痺が進行するにつれてバランスがうまく取れず転んでしまうことや、そのまま起き上がれなくなることも増えていった。仕事で留守にする時間も多い森谷さんは、さくらが起き上がれずパニックになってしまうことを心配した。

先生にどうしたら良いかと相談したところ、「背中にクッションを乗せてあげたらどうか」と言われ、それが「通称・亀甲羅クッション」のアイデアにつながった。

実際にInstagramで作り方を紹介すると、1,500いいねの反響があった。

▲亀甲羅クッションの表面と背中側

「じつはこれ、犬用の着ぐるみを切って少し裁縫しただけなんです」

作り方はとてもシンプル。

①着ぐるみの甲羅部分を切り離す
②首輪を2つ使って前脚を通す輪っかを取り付ける
③腰のあたりに伸縮性のあるゴムをつける

転びそうになってもクッションがストッパーになり、万が一転んでもクッションが身体を半分起こしてくれるため起き上がりやすくなったのだという。

さらに、クロスして縮こまりがちな前脚を伸ばしてあげるために「リラクッション」も購入した。

「これなら優しく伸ばしてくれるので気持ちよさそうです」

▲リラクッションに乗ってごはんを食べるさくら

寝ている時間が多い時に乗せてあげたり、また立つ姿勢を維持できるため、ごはんの時や外の景色を見たがっている時にも活用しているという。

少しずつ麻痺が進行してきたさくらだが、森谷さんの支えもあり、日々の散歩も、夏場には大好きなプールでも身体を動かすことができていた。

▲さくらは泳ぐのが得意

突然の緊急入院

15歳の冬、さくらの身体に突然異変が起きた。ごはんを食べなくなり、翌日の朝には尿がオレンジ色に。急いで病院に連れて行くと「胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)」と診断された。

これは胆嚢内にゼリー状の粘液が異常に溜まる病気で、進行すると胆管閉塞や胆嚢破裂につながり命に関わる。

ステロイド薬の副作用が原因の一つとされており、森谷さんが以前から心配していた病気でもあった。

診断された時には「即入院・即手術が必要」と告げられたが、森谷さんは手術ではなく点滴と内服による治療を選択。入院期間も、症状が落ち着くまでの間だけに決めた。

そうして始まった入院生活2日目、治療の効果があり一時的に数値が下がった。しかし症状が落ち着き意識が戻ったことで、さくらは病院でひとりでいることにパニックを起こしてしまう。昼も夜も泣き続け、ごはんを食べれずトイレもできない状態が続いた。

数値の改善を調子の波と考えていた先生は、入院3日目には最悪の事態も想定して「落ち着いてる今のうちに、家に帰ってみないか」と提案してくれた。

「私も正直、看取る覚悟を少ししていました。
でも私や凛、わさびと一緒にいることで元気になるんじゃないかと信じて、連れて帰りました」

3日ぶりに自宅に帰ったさくらは、家族に会えたことでパニック症状が落ち着き、ごはんを食べられるまでに元気を取り戻していった。

それからは、溜まった粘液を外に出す利胆剤の服用と、食事療法が始まった。

フードは低脂肪(脂肪分6%以下)のものを選び、また腸の機能を良くするために温野菜や発酵食品を加え、粘液が溜まらないよう工夫した。

その結果、「手術しなければ治らない」と言われていた胆嚢内の詰まりは改善し、血液検査の数値もすべて基準値内に戻ったのだ。

車椅子デビュー、そして走る!

しかし、その後は左前脚へも麻痺が及び、散歩に出かけても歩けない日が増えてきた。

「このまま歩けない日が続くと自信がなくなってしまう」と心配した森谷さんは、以前から考えていた車椅子を作るためにオーダーメイドの車椅子屋「ポチの車イス」へ足を運んだ。

▲採寸中の様子

採寸してもらい、その日のうちにさくら専用の車椅子が完成。費用は4万円ほどだった。

その場ではじめて車椅子に乗ったさくらは、嬉しそうに歩き出した。

「その時のさくらの笑顔がとにかく可愛くて、本当に嬉しかったですね」

そして、夕方の散歩で車椅子デビューを果たすと、なんと数年ぶりに走り出したのだという。それ以降の散歩でも、車椅子は大活躍している。

▲車椅子に乗って初めての散歩

「さくらは病気が多かったけど、毎回頑張ってくれて。それがとにかく嬉しいんです」

16歳6ヶ月となった現在、耳がほとんど聞こえなくなったというさくらの背中をやさしく撫でながら、森谷さんは話した。

そしてさくらのことを見つめたまま、今年の夏の目標について続けた。

「今年の夏も、去年みたいにプールで遊びたいし、ひまわりも見に行きたいですね。
この歳になると『今年が最後の夏になるかも』って考える部分がいつもあって。だからこそ日々のルーティンもそうだし、一つ一つの行事を大切にして、来年に繋げられたらなって思ってるんです」

森谷さんや凛、わさびの支えがある限り、さくらはこれからも前へ進もうとする。そしてそのさくらの存在が、家族にとっての原動力になっている。

「私は、さくらが納得するまで一緒に歩きますし、ずっと支えますよ」

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