特集

2025/08/08

レプトスピラ?夏の水遊びに潜む感染症などの健康リスクを解説

夏の間は、川や湖といった自然の中で愛犬と水遊びをする機会が増えます。
しかし、そこには熱中症以外にも「レプトスピラ」等の感染症や水中毒といった健康リスクも増加します。
特に加齢により運動能力や免疫力が低下しやすいシニア犬は、その可能性が高まるため注意が必要です。
実際、weDOG編集部が行ったアンケート調査では、10歳以上の愛犬と水遊びをした経験のある飼い主さんのうち、約2割が「遊んだ後に体調不良を経験した」と回答しており、中には「レプトスピラ」等の感染症や水中毒が原因となっているケースも考えられます。
愛犬の健康を守るためには、水遊びで注意すべきポイントを事前に把握しておくことが重要です。本記事では、夏の水遊びに伴うリスクとその予防・対策について解説します。

小林清佳

獣医師

日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部獣医学科卒業。
複数のクリニックでの勤務を経て、2009年4月に杉並区宮前で現「モノカどうぶつ病院」を開院。
病院での診察のほか、往診にも対応している。

目次

2割の犬が「水遊びの後の体調不良」を経験

▲【調査概要】有効回答数:306件/対象者:10歳以上の愛犬と暮らす人/実施時期:2025年7月/利用媒体:インターネットによるアンケート/調査主体:株式会社キュービック

調査によると、夏の水遊びの後、愛犬に何らかの体調不良が起こった経験のあるシニア犬オーナーは21.8%いるという結果になりました。
その主な原因は熱中症や疲労と考えられますが、レプトスピラなどの細菌感染や水中毒が関わっているケースも考えられます。

熱中症では一般的には嘔吐、そして下痢の症状が現れます。
一方、レプトスピラ症では一般的に初期症状は発熱、元気消失、食欲不振、嘔吐や粘膜の充出血(気が付きやすいのは血尿)、そして黄疸などがよく知られます。また、急性腎障害や肝障害も鑑別になります。

水遊びのリスクを知って正しく恐れる

自然環境下での水遊びにおいて、知っておきたいレプトスピラ症やその他の健康リスクについて解説していきます。

汚染された水や土壌から感染するレプトスピラ症

▲病原性レプトスピラの電子顕微鏡写真(ウィキペディア/PublicDomain)
病名 レプトスピラ症
原因 川や湖、土壌に含まれるレプトスピラ菌(野生動物の糞尿による汚染)
主な症状 発熱、食欲不振、元気消失、嘔吐。重症化で腎不全・肝不全・肺出血など
潜伏期間 3日〜14日

「レプトスピラ症」は、ネズミやアライグマなど野生動物の糞尿で汚染された水や土壌から感染する細菌性の疾患です。

編集部のアンケート調査によると、レプトスピラ症の知名度はわずか9.4%と低かったものの、2024年には全国で55件、過去10年では317件の発生※が報告されており、決して珍しい病気ではありません。
監視伝染病の発生状況(農林水産省)

犬が川の水を飲んだり、ぬかるみを舐めたりすることによる経口感染のほか、汚染された土壌の上を歩く、汚染水に触れることによる経皮感染のリスクもあります。

人獣共通感染症ですので、人も裸足で歩く等によって経皮感染する可能性は充分にあり得ます。雨の後は菌が流れ込みやすく、特に注意が必要です。

感染すると、3日から14日の潜伏期間を経て発熱や食欲不振、元気がなくなる、嘔吐などの症状が現れます。重症化すると腎不全や肝不全、肺出血を起こして命に関わることもあるため、特に免疫力が落ちているシニア犬では注意が必要です。

予防としては、混合ワクチンの接種があります。

しかし、レプトスピラには多数の血清型があるため、現行の一般的なワクチンによって100%予防できるわけではありません
また、レプトスピラが含まれるワクチンは副反応が多い傾向があるため、シニア犬の場合は特に獣医師と相談の上、慎重に判断してください。

水まわりで気をつけるべき寄生虫感染(ジアルジア・クリプトスポリジウム等)

▲ジアルジア症の原因となるランブル鞭毛虫の走査電子顕微鏡写真(ウィキペディア/PublicDomain)
病名 寄生虫感染
原因 汚染された水や泥に含まれる原虫(寄生虫)、あるいはオーシストの経口感染
主な症状 軟便、下痢、嘔吐、体重減少
潜伏期間 人間の場合は1~2週間と言われるが、正確な潜伏期間は不明

川や湖、水たまりには「ジアルジア」や「クリプトスポリジウム」などの寄生虫が存在します。犬が水や泥を口にすることで、これらの寄生虫に感染する恐れがあります。

ジアルジアは、子犬や免疫力の低下したシニア犬であれば下痢を起こすこともあり得ますが、多くは不顕性感染です。
クリプトスポリジウムも健康な犬であればほとんどが不顕性感染であり、症状が出たとしても非常に軽いか、自然治癒します。

ただし、アトピー治療や癌治療などで免疫抑制剤やステロイドを長期投与している犬の場合は重症化する可能性もあり、注意が必要です。
また、犬の糞便を通じて人への感染源となることが問題視されています。

他にも感染機会がある寄生虫として「糞線虫」や「鈎虫」などがありますが、夏の自然界においては「マンソン裂頭条虫(カエルやヘビを食べてしまう)、「肺吸虫(サワガニを食べてしまう)」に注意しましょう。

水の飲みすぎが引き起こす「水中毒」

病名 水中毒
原因 短時間で大量の水を飲むことで体内バランスが崩れる
主な症状 元気消失、ふらつき、意識障害、けいれん、昏睡など
潜伏期間 数分〜数時間

「水中毒」は短時間に大量の水を体に取り込むことで血液中のナトリウム濃度が下がり、体内の塩分バランスが崩れることで引き起こされます。

水を一気に飲みすぎると、体内の塩分(ナトリウム)が急に薄まるため、体は余分な水分を血液から細胞へ送り込みます。その結果、脳の細胞に水分がたまりすぎて腫れあがり、硬い頭蓋骨の内側で脳が圧迫されてしまうのです。

この状態になると、元気がなくなったりフラついたりといった症状が現れ、進行すると意識障害やけいれん、昏睡といった重い神経症状が現れることもあります。
早ければ数分、遅い場合は数時間後に症状が現れます。

また、海で泳がせて海水を多く飲んでしまった場合には「塩水中毒(高ナトリウム血症)」の可能性があります。
そのため、淡水だけではなく海水にも注意が必要です。

特にシニア犬は、加齢による筋力低下や疲れによって首が下がりやすくなり、水面に顔をつける時間が長くなるため、水を飲み込みやすくなっています。

その日中に少しでも異変があれば、すぐに動物病院へ連れていってください。治療では、点滴で体のバランスを整えたり、必要に応じて利尿剤や脳の腫れを抑える薬を使って対応します。

自然界で遊ぶための心構えとシニア犬の安全対策

自然の中での水遊びは非日常で特別な瞬間です。
一緒に時間を共有したいと考える飼い主さんが多いことは理解できます。

しかし、お出かけの前に「身体能力や免疫力に不安があることの多いシニア犬にとって、その遊びは必要か?」「わざわざ感染症対策が必要な環境へ連れて行くことは正しいのか」といった身体的な負担について考えてみることも大切です。
水遊びが好きな子であれば、自宅でのプール遊びも十分に楽しい時間になるはずです。

その上で、お出かけして水遊びを行う場合は、最低でも予測できる対策はしていきましょう。

まず、泳ぎが得意な犬でも、必ずライフジャケットを着用させること。年齢とともに筋力や体力が低下しやすく、急に体が思うように動かなくなることもあります。万が一の事故を防ぐために欠かせないアイテムです。

また、こまめな体調チェックと十分な休憩を心がけてください。少しでも疲れや息切れ、違和感が見られたら無理をさせず、水からあげて休ませてください。

水遊びが終わったあとは、清潔な水で全身をしっかり洗い流すことも重要です。水や土壌に含まれる細菌や寄生虫を落とし、皮膚トラブルや感染症の予防につながります。

さらに、雨が降った直後は流れ込む菌や寄生虫の量が増えるため、水遊びは控えるのが安心です。水量や水流れが急に変わったり、水質が悪化していることもあるので、天候にも十分注意しましょう。

持病があるシニア犬(腎不全、心臓病、呼吸器疾患など)は、事前にかかりつけの獣医師に相談することも大切です。体調や体力に不安がある場合は、無理をせず控える選択も考えてください。

シニア犬との夏のお出かけは慎重に

シニア犬と自然の中で水遊びを楽しむためには、熱中症の他に感染症や寄生虫、水中毒などへの理解と対策が必要です。

しかし、例えばレプトスピラのワクチン効果は100%ではありませんし、感染症や寄生虫は経皮感染することもあります。首の筋肉が衰え、これまでは平気だった海や川でも大量の水を飲んでしまうかもしれません。

そうしたリスクを知った上で、愛犬の健康状態や運動能力などを考慮した結果、無理に水遊びをさせないという判断もあり得ます。
本記事を参考に、ぜひお出かけ前に十分な検討をしてください。

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