健康と病気の話
2025/07/29
【寝たきりにさせない】シニア犬の下半身を強化する筋トレ・散歩テクニック

犬の平均寿命はこの10年でおよそ半年延び、今では14歳を超えるようになりました(アニコム「家庭どうぶつ白書」)。
その一方で、高齢化に伴い足腰の衰えや筋力低下で「歩くのがつらそう」「寝たきりが心配」と感じる飼い主さんも増えています。
今の時代に大切なのは、できるだけ長く「寝たきり」にさせず、自分の足で歩き続けられる毎日を守ってあげること。
それこそが、飼い主にとって最も大事な役割の一つです。
「歳だから」とあきらめる必要はありません。
久米川みどり動物病院でリハビリや介護を担当している看護師・神沢優希さんも、「シニア期からでも筋力アップは十分めざせます」と話しています。
今回は、現場で数多くのシニア犬を見てきた神沢さんに、「飼い主が自宅でできる筋トレ&散歩のコツ」を詳しく教えてもらいました。
愛犬が元気に動ける時間を一日でも長くするために、今日からできる具体的なアイデアとアドバイスをお届けします。
神沢優希
愛玩動物看護師
テネシー大学認定理学療法士。
IAALPドッグマッサージセラピスト。
現在は、久米川みどり動物病院でリハビリスタッフとして従事。
目次
筋肉は後ろ足から衰えはじめ…やがて寝たきりに

散歩の途中で座り込んでしまったり、あらゆる動作が遅くなったり。
もう歳だから仕方がないと感じてしまう瞬間は、どの飼い主にも訪れます。
しかし、神沢さんは「シニアでも大丈夫」と強調します。
「年齢に関係なく筋力UPは可能です。私がリハビリを担当した犬のなかには、シニア期から運動を始めて後ろ脚の筋力が回復し、散歩を再び楽しめるようになった子もいます」(神沢さん・以下同)
犬はもともと体重の60〜70%を前脚で支えているため、後ろ脚は負荷がかかりづらく、加齢とともに筋力が落ちやすい部位です。
放っておけば、後ろ脚の筋肉がやせ細り、立ち上がるのに介助が必要になるケースも珍しくありません。
歩けない期間が長引くほど排泄の失敗や褥瘡(床ずれ)、刺激不足からくる認知症リスクが高まり、寝たきり状態へ一気に傾く恐れがあります。
「当院でも『歩くのが苦しそう』『立つことすらしんどそうな時がある』というご相談がとても多いです。足腰が弱ると散歩の距離が短くなるなど、運動量が低下します。また、それに伴って食欲や筋力も落ちやすくなります。
逆に足腰がしっかりしていれば散歩や遊びを楽しむことができ、食欲や筋力も維持しやすくなります。結果として愛犬との暮らしのQOL(生活の質)を大きく引き上げることにつながるのです」
愛犬たちも高齢化が当たり前となった現代、私たち飼い主がめざすべきは「愛犬を寝たきりにさせない=動ける時間をできるだけ長く保つ」こと。
そのためには、わざわざ何かを購入する必要はありません。
日々の散歩のひと工夫と家の中の筋トレだけで、愛犬の歩ける時間は延ばせると神沢さんは言います。
【自宅編】何歳からでも効果のあるカンタン自宅筋トレ
ここでは家の中で今すぐ始められる「後ろ足を鍛える下半身トレーニング」と「バランスを整える体幹トレーニング」の2つを紹介します。
後ろ足を鍛える「タオルハードル」
下半身強化で特に大切なのは、普段は地面から離れない後ろ足を、あえて持ち上げる動きを意識的に取り入れることです。
足を持ち上げるたびに股関節、膝、足首が連動して動き、萎縮しがちな筋肉と関節をまんべんなく刺激できます。
「タオルを丸めて床に置き、それをまたがせる『タオルハードル』がおすすめです。タオルならもしつまずいても大きなケガにつながりにくく、安全性が高い方法です」

目安となる高さは愛犬の膝ほどまで。
これ以上高いと跳び越える動作になってしまい、関節に余計な負担をかける恐れがあるため注意しましょう。
「大切なのは飼い主さんと愛犬が楽しみながら実践すること。そして愛犬が嫌がったらすぐやめるようにすることです。
以前、とても熱心な飼い主さんが自主的に1日数回、それも1回40分というハイペースで筋トレを行い、犬が筋トレ自体を嫌いになってしまったケースがありました。おやつや器具を見るだけで逃げ出すようになり、回復への道のりがかえって遠のいてしまったのです。
毎日ほんの数分でも無理なく続けるほうが、結果的に大きな成果につながりやすくなります」
体幹を鍛えるなら「ゆっくり立ち座り」+バランスディスク

寝たきりを遠ざけるには、胴体を支える体幹の強化も欠かせません。
体幹が安定すると腰や四肢への負担が減り、自力で立ち上がる、向きを変えるといった基本動作が格段に楽になります。
その結果、転倒や関節痛の悪循環を防ぎ、シニア期でも活動量を保ちやすくなるのです。
「体幹トレーニングは特別な道具がなくても始められます。立ったり座ったりをゆっくり繰り返すだけでも十分効果的。さらに、おやつを鼻先の高さに掲げて『おすわり』を数秒キープさせると、背筋が自然に伸び、姿勢が整いながらバランス感覚も磨かれます」
道具を使う場合は、バランスディスクなど適度に不安定な台に四肢を乗せて静止させる方法が効果的です。
揺れを保とうとする間に腹筋や背筋、体側のインナーマッスルがいっせいに働き、短時間でも高い刺激が得られます。

「ただし姿勢を崩したまま続けると関節を痛める恐れがあるため、必ず獣医師やリハビリ専門スタッフから安全な姿勢や時間、頻度を教わってから始めましょう」
【散歩編】コースに変化をつけて筋力も脳も元気に

毎日の散歩も工夫次第で、屋外ジムに変わります。
神沢さんはまず、コース設定の見直しを勧めます。
「筋トレに最適な散歩は砂浜を歩くことですが、土や芝生でも効果的です。後ろ足の踏み込みが深くなり、自然とお尻や太ももの筋肉を使うようになります」
普段、アスファルトだけの散歩コースになっている人は凹凸や沈み込みのある場所を歩かせるように意識しましょう。
ただし勾配が急すぎる坂や長い坂ばかりを歩かせると、関節に負担がかかり逆効果になることも。
緩やかな坂を短い距離で取り入れ、平坦路や芝生、土の路面と組み合わせてメリハリをつけると安全です。
また、これには筋力アップ以外のメリットもあると神沢さんは続けます。
「さらに、肉球が感じる凹凸や温度は脳への刺激にもつながり、バランス感覚の維持や認知機能の活性化にも一役買ってくれます。
いつも同じコースじゃなくて、たまには道や景色を変えて脳にも刺激を与えてあげましょう。匂いや視界が変わるだけで好奇心が呼び起こされ、歩幅が自然と広がる犬も少なくありません」
体調が良い日は10分コースを朝夕2回、疲れが見える日は5分だけにするなど、その日のコンディションに合わせて散歩の距離やコースを調整しましょう。
こうした日々の工夫の積み重ねが、シニア犬の筋肉や神経を刺激し、足取りを着実に力強くしていきます。
歩き方や体調に「いつもと違う」を感じたら、迷わず相談を

愛犬がいつまでも元気に歩けるように、まずは2つのことを意識してみましょう。
- タオルハードルで、普段あまり使わない後ろ足のトレーニングを行う
- 散歩コースに芝生や土、ゆるやかな坂道など、アスファルト以外の路面を取り入れる
「歩くのを嫌がったり、痛そうな素振りを見せたり…いつもと違う動きが続くときは自己判断せず、まずは動物病院で診てもらいましょう。関節炎やヘルニアなどの痛みを伴う疾患のほか、内臓疾患など内科的な病気が隠れている場合もあります。
診断結果や治療方針に不安が残る場合は、別の病院の意見を聞くのも一つの方法です」
この2つの習慣と、違和感を感じたらすぐ獣医に相談する姿勢。
これだけでも、シニア期の愛犬が「自分の足で歩ける時間」を伸ばせる可能性はぐっと高まります。
まずは小さな一歩から、一緒に始めてみませんか。