健康と病気の話
2025/10/03
未病&健康寿命延伸! シニア犬の健康診断(ペットドック)正しく賢い活用法

シニア期に入った愛犬の健康寿命延伸には定期的な健康診断が有効です。
病気以外にも、加齢に伴う内臓消耗や慢性疾患の発見につながり、早期のアプローチが可能になるからです。近年では「ペットドック」(犬であれば「ドッグドック」)とも呼ばれる精密な検査も可能となっていますので、シニア犬オーナーには、愛犬に合わせた適切な内容での受診をおすすめします。
健康診断(=ペットドック)の検査内容や効果、さらには費用や活用法などについて「ふく動物病院」院長の出浦知也先生に詳しく教えてもらいました。
出浦 知也
獣医師
2001年獣医師免許取得 2005年から東京都国立市「ふく動物病院」院長
モットーは「獣医師は仕事はできて当たり前、プラス人間性」
・日本獣医がん学会所属(認定医2種)/日本獣医腎泌尿器学会所属(認定医)
・日本獣医麻酔外科学会所属/日本獣医循環器学会所属
目次
「健康診断」と「ペットドック」は何が違う?
近年「ペットドック(ドッグドック)」という言葉を耳にすることが増えましたが、一般的な「健康診断」との違いはどのような部分なのでしょうか。
「どちらも愛犬の健康状態を把握し、病気の早期発見・治療につなげることを目的とした健康診断です。検査する項目数などに違いはありますが、ペットドックも基本的には同じものと考えて大丈夫です」(出浦先生 ※以下同様)
健康診断の名称や検査内容、そして費用は病院やプランによって異なります。
「ペットドック」がさらにコース分けされている場合もありますし、充分に充実した検査内容の「健康診断」もあります。
最適な検査内容は愛犬の年齢や既往歴などによって変わるため、獣医師と相談して決めることをおすすめします。
また、これまで健康面に問題がなかった愛犬であったとしても、シニア期に油断は禁物です。
出浦先生は、10歳前後で1度、健康状態を正しく把握するために健康診断を受けておくことを推奨しています。
シニア期が定期的な健康診断を受診するメリット

愛犬の健康状態を定期的にチェックすることは年齢・犬種を問わず重要ですが、とりわけシニア犬の場合はいくつかの大きなメリットがあります。
- 病気を早期に発見できる
- 適切な治療の選択肢が増える
- 長期的な医療費の軽減につながる可能性がある
1. 病気の早期発見につながる
人間も犬も、加齢は様々な病気リスクを高めます。
腎臓病、心臓病、糖尿病、関節疾患、腫瘍、認知症など…シニア犬がかかりやすい病気は多岐にわたりますが、健康診断はこれらの病気の兆候を早期に捉えるための重要な手段となります。
「犬種にもよりますが、10歳を超えてくるとホルモン系の疾患が増える傾向があります。また、健康診断において、脾臓の腫瘍が見つかることが多いと感じています」
人間ではあまり耳にしない「脾臓の腫瘍」は意外と多く、元気だった子が急に体調を崩す原因になることもあるそうです。
「人間と同じように犬も歳を取ると背骨が曲がることがあります。画像検査によって、こうした骨格系の異常も発見できます」
内蔵だけではなく、定期的な健康診断が様々な健康リスクの早期発見につながるケースは珍しくありません。
2. 適切な治療の選択肢が増える
病気を早期に発見することができた場合、早いタイミングでの対応・治療といったアプローチが可能になります。
また、治療の選択肢自体が増える可能性も高まります。
「早期に異常を発見できた場合、飼い主さんと相談しながら愛犬にとってより良い選択が可能になります」
例えば、初期段階であれば食事療法や投薬治療で病気の進行を遅らせることができる病気もあります。特にシニア犬の場合、もし手術が必要な病気だったとしても、早期・軽症のうちに実施することで、愛犬の負担やリスクを抑えることができるようになります。
3. 医療費の軽減につながる可能性がある
愛犬に何らかの手術が必要となった場合、数十万円の費用がかかることもあります。また、病気によってはペット保険の適用外であることも少なくありません。
何より、愛犬にとっては手術や治療、入院自体が大きな負担(=コスト)になってしまいます。
健康診断の受診には都度費用がかかります。しかし、中長期的に考えた場合、健康診断はコストパフォーマンスの良い医療費だと言うこともできそうです。
検査の結果、異常や病気が見つからなかった場合は「愛犬が健康であるというお墨付き」を買ったと思いましょう。
健康診断ではどんな検査をするの?

健康診断の具体的な内容は、動物病院やプランによって異なりますが、ここでは一般的な検査項目と、特にシニア犬にとって重要なポイントについて解説します。
- 身体検査(視診・触診・聴診)
- 血液検査
- 画像検査(レントゲン)
- 画像検査(超音波)
- 尿検査
1. 身体検査(視診・触診・聴診)

体重測定などとともに、獣医師が愛犬の全身を「診て・触って・聴いて」異常がないかを診断します。
「同じ年齢でも元気な子とそうでない子では、筋肉や脂肪の量、顔の凹み具合などが違います。また、触診ではしこりやリンパ節の腫れなども確認できます」
ちょっとした体重の増減や見た目など、些細な変化から病気のサインが見つかることも少なくありません。獣医師に医学的な見地からチェックしてもらうことが重要なのです。
また、聴診では心雑音が確認され心臓病の早期発見につながるケースもあるといいます。
「検査において、飼い主さんからの情報はとても有益です。普段のスキンシップを通じて気になっていることがあれば教えてください。メモ・写真・動画、何でも参考になります」
例えば、ごはんの量が増えた、耳がかゆそう、歩き方が変わった…等、気づいたことがあれば何でもでも伝えましょう。
2. 血液検査:数値が語る体の内側

血液検査では主に内臓の機能やホルモンバランスなどを詳細に調べることができます。
「血液検査は、いわば『病気にアタリを付ける』ものです。ベーシックな血液検査を継続することで異常が見つかれば、そこから想定される可能性に対して精密な検査へつなげていきます」
出浦先生は、実際の診断結果を元に、血液検査の効果について説明してくれました。

「例えばこの子の場合…昨年まで正常だったコレステロール値が上昇し、腎臓の数値は正常に戻っています。また、急激に上がったALPの数値に注意が必要であることがわかります」
このケースでは、上昇したコレステロール値と、ALP値の急上昇に対するアプローチを検討できるようになります。
各項目については獣医師が丁寧に説明してくれますが、愛犬の検査結果が何項目あって、それぞれの数値が何を意味するのかを知っておくと「自分ごと化」しやすくなります。
とはいえ、血液検査の項目は数多くあり、それぞれが何を示すものかを理解している人は少ないでしょう。
大まかな血液検査の項目を以下にまとめました。
■血液検査項目(一例)
検査項目 (略称) |
分類 | わかること |
---|---|---|
ALP | 肝臓 胆道系酵素 |
●肝臓や胆道の状態など ●ホルモン異常などで高い値になることもあるため、 総合的な判断が必要となる |
ALT | 肝臓系酵素 | ●肝臓の損傷がわかる ●肝炎や肝臓病の早期発見につながる |
BUN/Cre | 腎臓機能 | ●腎臓の機能がわかる ●腎臓病の早期発見につながる |
GLU | 血糖値 | ●糖尿病の有無がわかる ●数値によっては追加の検査が必要 |
TP/ALB | タンパク質 (総蛋白/アルブミン) |
●栄養状態、肝臓・腎臓の機能など ●慢性的な炎症や肝臓・腎臓の機能低下、 栄養状態の悪化を示すことがある |
T-CHO | コレステロール | ●脂質代謝の状態、一部のホルモン疾患の指標になる ●ホルモン疾患で高い値になることがあるため、 総合的な判断が必要 |
T4 | 甲状腺ホルモン ホルモン |
●甲状腺の機能・状態がわかる ※高齢でコレステロールが高い場合など、疑わしい場合に測定する ※高齢犬は年に1回程度の測定が推奨される |
コルチゾール | ホルモン | ●副腎皮質機能(クッシング症候群などの診断) ※ALPやT-CHOの上昇が認められる場合は検査が推奨される。 ※多飲多尿、腹部の膨らみ等の症状があれば検査を検討する。 |
どの項目を検査すべきかは、年齢や体調、既往歴などによって獣医師と相談して決めると良いでしょう。
3. 画像検査(レントゲン):体の内部を可視化する

健康診断でのレントゲン検査では腹部と胸部のX線検査が一般的です。
シニア犬オーナーさんには愛犬の放射線被曝を心配される方もいますが、飛行機に乗るのと同程度の被曝量と言われており、過度な心配は不要だと考えてよいでしょう。
「レントゲンでは臓器の他にも、骨格の変形や関節炎といった見た目ではわからない異常も発見できます」
背骨の一部が橋のように繋がってしまい、腰痛の原因となる「ブリッジ」等ははっきりと映ることが多いといいます。

「あるシニア犬が『最近、寝ないでずっと歩き回っている』『座りたがらない』」と聞き、血液検査では特に異常もなかったのですが…レントゲンでブリッジが確認できました。痛み止めやサプリメントの使用、生活環境の指導を行い改善しました」
健康診断(レントゲン)には、重篤な病気の発見だけではなく愛犬のQOL向上という効果もあるのです。
4. 画像検査(エコー):脾臓の腫瘍がよく見つかる

エコー検査(超音波検査)では、臓器内部の状態や血流などをリアルタイムで確認します。
「心臓と腹部を診るのが一般的です。画像検査では前回との比較が重要になるため、定期的に実施することがポイントです」
なお、出浦先生によると、エコー検査では脾臓の腫瘍が見つかることが多いのだとか。
「あるシニア犬のエコー検査で、脾臓に小さな腫瘤が見つかりました。幸い、症状は全く出ていませんでしたが、今後の破裂リスクを含めて飼い主さんと相談の上、外科手術で摘出することに。結果的に腫瘍は良性であったため、愛犬はその後も元気に過ごしています」
もし健康診断で見つかっていなければ大規模な手術が必要になったり、命に関わる事態になっていた可能性も否定できません。
5. 尿検査:体調の変化を映し出すバロメーター

尿の色、タンパク質や糖の有無などを調べることで、腎臓や泌尿器系の異常を早期に発見できます。
「飲水量が多くて尿が薄い、尿比重が低いのに、タンパク質が出ている。尿糖が出ている場合は、腎臓病や糖尿病などのサインかもしれません」
尿検査で異常が見つかった場合は、食事療法などで早期に介入できることがあります。その結果、重症化を防ぐことができる可能性が高くなるでしょう。
なお、検査の実施においてはなるべく精度を高めるために、できるだけその日最初の尿を持参するのがベターです。
全身麻酔が必要な「CT」や「MRI」検査は滅多に行わない

獣医医療では、「一般的な健康診断」において、全身麻酔が必要となるCTやMRI検査を行うことは稀と考えられます。もし、精密検査が必要となった場合も、事前検査や説明が行われます。
「麻酔が必要な検査は事前の検査でリスクを評価し、飼い主さんと十分に相談した上で行われます。私たち獣医師も慎重に判断しますが、飼い主さんとのコミュニケーションが非常に重要になります」
全身麻酔が不安だから、と健康診断を避けているオーナーさんは安心してください。
一方で、健康診断に限らず「高齢犬への麻酔は不安」と感じる方は少なくないでしょう。
「2歳の子と12歳の子に麻酔をかけるのとでは、やはり意識も違いますしリスクも変わってきます。その一方で麻酔専門医も増えており、獣医師のスキル向上などを相まって獣医療での麻酔は格段に安全になっているとも言えます」
愛犬の健康リスクと全身麻酔のリスク…その判断は最終的に飼い主へ委ねられますが、獣医師としっかりコミュニケーションをとることで納得できる判断をしましょう。
シニア犬に最適な健康診断の頻度は?

シニア犬の場合は年齢や健康状態にあわせて半年に1回、あるいはそれよりも頻繁な受診を検討してみてください。
「定期的な検査をすることで例年との比較ができ、変化に気付くことができます。数値の推移から将来的なリスクを予測することが可能になるのです」
出浦先生は回数ではなく、継続的な受診のメリットを強調します。
例えば、「この数値が徐々に上がってきているので…」といった予測ができることで、生活習慣の指導等によって未病化につながるケースもあるでしょう。
「それと…シニア犬であれば、血液検査だけではなく画像検査(レントゲン、エコー)も定期的に実施してほしいです。年齢を重ねると骨格の問題も出てきます」
定期的に必要な検査を実施し、獣医師とコミュニケーションをとりながら、ともに愛犬の健康状態を把握・管理していきましょう。
健康診断の費用について解説

「健康診断は受けたいけど、費用が気になる」これは多くの飼い主さんが抱える、無視することのできない悩みです。
実際に、特殊なホルモン検査では1項目あたり7,000〜8,000円程度の費用がかかるものもあるため、定期的に受診する場合は相当な負担になり得ます。
「毎回高額なフルパッケージの検査を受診する必要はありません。基本的な検査を受診し、必要に応じて追加検査を実施してください」
出浦先生が院長を務める「ふく動物病院」の場合、ベーシックな検査パッケージ(血液検査約10項目+身体検査など)は8,000円程度となっており、まずはこの範囲で基本的な健康状態を把握するのがおすすめだと言います。
「血液検査でコレステロールが高かったり、病気の疑いがある場合には『このホルモン検査も追加してみませんか?』といった形で、必要な項目を提案させていただきます」
すべてを一度に調べるのではなく、段階的に、そして愛犬の状態に合わせて必要な検査を選んでいくことで、経済的にも無理のない健康管理を続けることができます。
悩んだら、獣医師に「費用面も考慮して、何を検査すべきか」と率直に相談してみるのも良いでしょう。
飼い主さんができる自宅での健康診断

定期的な健康診断と合わせて、日々の愛犬の様子を観察することが病気の早期発見には重要です。
出浦先生から伺った4つの「自宅でできる健康診断」を習慣化し、異変があった場合は病院へ相談に行きましょう。
1. 体重測定
「犬は基本的に毎日同じ行動をするため、食事が変わらなければ健康な犬の体重が大きく変動することはありません」
体重の増減は何らかの健康問題がある重要なサインです。
測定頻度としては毎日が理想ですが、週に1度でもよいので定期的に体重を測る習慣を持つようにしましょう。
愛犬を抱いて体重計に乗り、人間の体重を引くことで簡単に測ることができます。
「チワワのような小型犬の場合、数十グラムの増減でも何か異常がある可能性も考えられます。気になる増減があった場合は獣医師に相談してください」
2. 飲水量・尿量のチェック
「飲水量・尿量は非常に大事なチェックポイントです。腎臓が悪くなると水をたくさん飲むようになります。他にも糖尿病やホルモン疾患などが考えられます」
1日の水分摂取量は「体重1kgあたり100cc」が目安と言われています。5kgの愛犬であれば500cc以上の場合に「飲みすぎかも?」と意識するようにしましょう。
「尿量測定はペットシーツの重さを測ることで大まかに把握できます。使用済みのシーツの重さを測り、新品のシーツの重さを差し引くことで、排泄された尿の量を推測できます」
3. 便や食欲の観察
便の変化(硬さ、色、回数)も、日々の健康状態を知る重要な手がかりになります。
下痢が続く、血便が出た、色が黒い、便をしない日が増えた等々…判断に迷う場合は写真などで記録しておくのがおすすめです。
4. 全身のチェック(見た目・触診)
日々のスキンシップやブラッシングの際に、全身を触ってしこりがないか、皮膚に異常がないかなどを確認しましょう。毛艶や目の輝き、表情なども観察してください。
皮膚の状態や動きの変化に関しては確信が持てない場合もあるかと思います。そうした時も写真や動画を撮ったり、変化をメモするなどしておくと獣医師が判断しやすくなります。
シニア期のQOLは定期的な健康診断から

犬は人間のように「ここが痛い」「調子が悪い」と身体の不調を言葉で伝えることができません。
検査結果の一つ一つが、愛犬から私たちへのメッセージなのです。
「現代の10歳はまだまだ元気で、必要な治療もほとんど可能だと考えています。大切なのは愛犬の健康状態を正確に把握し、獣医師と相談しながら最適な選択をすること。健康診断はそのための第一歩です」
少しの手間と費用はより豊かなシニアライフを送るための投資だと考え、定期的な検診を受けるようにしてください。